04
やたらと可愛らしい店員さんが注文を聞き終えて、奥へと入って行くのを見送ると、奈々未姉は悪戯っぽい顔で僕の顔を見た。
「どう?」
「どうって?」
「可愛いと思わない?」
ああ、そういうことか。僕は姿を消した店員さんの消えていった先を見た。もちろん彼女を見つけることは出来なかった。
「可愛いんじゃないの」
「あんたはタイプじゃないのね」
店員さんの顔をじっくりと見たわけじゃないが、とてもシャープな目つきが印象的だった。あれを好きだという人もいるかもしれないけど、僕には突き刺さらなかった。
「それとも、他に好きな人がいて?」
僕の心臓がドクンと一度跳ね上がった。
「なんでそうなるんだよ。バカバカしい」
僕は誤魔化すようにコップに入った水を一口飲んだ。
「男が可愛い店員さんを見て何の反応もしないのは、タイプじゃないか、他に好きな人がいるっていう相場なのよ」
「初めて聞いたよ。そんなこと」
恋愛をすることは悪いことじゃないのに、僕は何とか隠し通したかった。まるで僕の恥部を知られるみたいで、嫌だったのだ。
「あんたとお似合いっていうか、あんたにピッタリだと思うけどね。見た目年上そうだから。あんたは同い年の子や年下の子よりも、年上の方が合っているわよ」
似たようなことを僕は何度も言われてきた。きっと奈々未姉のせいだ。奈々未姉のせいで僕=年上の図式が出来上がってしまっているのだ。
「そしたら姉のいる弟はみんなそうなるよ」
「そんなことはないわよ。姉のいる弟だってしっかりした子はいるわ」
「まるで僕がしっかりした子じゃないって言っているように聞こえるんだけど」
「実際そうじゃない」
「失礼します」
僕と奈々未姉の会話を切ったやたらと可愛らしい店員さんが、コーヒーとケーキを持って来た。お盆に乗せたそれをテーブルに置いていく。
「お姉さん可愛らしいですね。歳は幾つなんですか?」
「ちょっと奈々未姉」
「シャラップ。あんたはお黙り」
掌を目の前に差し出され、僕は黙るしかなかった。店員さんの顔を窺い見る。
「にゃはは。私は二十五ですよ」
歳を訊かれることに慣れているのか、店員さんは気分を害した様子もなく、笑顔で答えて僕たちのテーブルから離れた。
「意外と歳、いってんのね。てっきりあたしと同じか、一つ二つしか変わらないと思ったのに」
二十歳前後だと予想していた奈々未姉の予想は外れ、バツが悪そうな奈々未姉に僕はざまあみろと思った。
散々僕を子供扱いしたくせに、彼女の前では奈々未姉だって子供なのだ。そう考えると、僕は胸がスーッとした。