08
部屋のベッドで寝転びながら、僕はコンビニで買った週刊誌を読んでいる。外はどうやら雨が止んだようだ。通り雨にたまたま当たっただけだった。
週刊誌はそのほとんどが芸能関連だった。別に芸能人のプライベートなんて放っておけばいいのに。
記事には女子アイドルの子が若手俳優と密会していたことが書かれていた。写真付きだが、果たしてこれを書いた編集者はどんな気持ちで書いたのだろう。
たかが十代の子を追っかけ回し、鬼の首を取ったぞといわんばかりに鼻息を荒くして記事を書く。そんなことがしたくて、この人は編集者になったのだろうか。
この編集者だって、親や知り合いがいるはずだ。もしかしたら、家族がいるかもしれない。自分の子供にこんな記事を読まれた彼の心境はいかほどか。
僕は週刊誌を読むのを止めた。こんな物を読んでいてもつまらなかった。適当に携帯電話を見るが、誰からもメールはなかった。
これがもし江籠さんと付き合っていたのならば。
寂しがり屋の彼女のことだ。きっと毎日メールをし合って、毎晩電話で話していることだろう。
今日あった出来事。こんなお客さんが来たんだ。へえ、そうなんだ。うん、すごく大変だったよ。そっか、お疲れ様。
妄想がグングンと広がっていく。
あのね、今日来たお客さんで、私たちぐらいの歳の子が来たのよ。うん、それで。で、その……ゴムを買ったのよ。ゴム? 輪ゴムのこと?
違うわよ。じゃあ、もしかして、“あれ”? そう、“あれ”。
まだ誰とも付き合ったことのない彼女は、当然まだ処女だ。処女の彼女は、そういったことに、とてもウブだ。
へー。そうなんだ。そうなのよ。反応が困っちゃうわ。そうだね。で、どうしたの?
ちゃんと接客をしたわよ。レジを打っている私も恥ずかしかったわ。ははは。でもすごいね、高校生でさ。
そうよね。でも私なら恥ずかしくて買えないわ。僕もそうだよ。そうよね。でも、そういう時になったら、用意しなくちゃいけないよね……。
うん、そうだよ――
「何してんの?」
「うわっ!」
急に目の前に奈々未姉の顔が見えて、僕は悲鳴を上げた。
「ちょっと! ノックぐらいしてよ」
「したわよ。でも返事がなかったの」
淫らな妄想をしていた僕は、突然現れた奈々未姉に心臓が張り裂けそうだ。
「で、何の用」
「夕飯が出来たから呼んで来てって言われたの。あら?」
めんどくさそうな顔で僕のことを見ていた奈々未姉が、床に落ちていた週刊誌を拾った。パラパラとページを捲っている。
「彼女がいないからって、官能小説に手を出すようになったのね。あんまり自分でやり過ぎると、本番で立たなくなるから注意なさい」
奈々未姉がそう言って広げたままに週刊誌を渡してきた。開いたページには官能小説が書かれていた。
「違うって。これが目的で買ったわけじゃない」
「はいはい。男なんてみんなそんなものよ。さ、早く下に降りてらっしゃい」
手をプラプラと振ると、さっさと奈々未姉は部屋から出て行ってしまった。僕は手に持った週刊誌を放り投げると、頭を掻いた。