07
僕の健闘空しく、地面を叩きつけるような激しい雨に打たれて僕は帰宅した。折り畳み傘が役に立たないほどの豪雨に晒された全身は、貼り付いた制服のズボンが気持ち悪い。
玄関で濡れた制服を脱いでいると、階段を下りる音が聞こえた。どうやら姉が家に居るようだ。
「あっ、変態だ」
玄関で制服を脱ぐ僕を見て、姉が開口一番そう言った。普通は「おかえり」とか、「大変だったわね」と言うはずだ。
「雨で濡れたから」
けれど、この変わり者でサディスティックな姉にそんな世間一般の常識など期待する方がバカなのだ。
「じゃあ、私シャワーを浴びてこようかな。寝起きで汗をかいたし」
頭の先からつま先までずぶ濡れの僕と、Tシャツにハーフパンツいった涼しい恰好をしている姉。果たして普通の人間ならば、どちらを優先させてくれるのだろうか。
「勘弁してよ、奈々未姉」
僕がそう言うと、奈々未姉は歯を見せた。
「しょうがない。今日は勘弁してあげるよ。私の機嫌が良かったことに感謝だね」
サディスティックマシーン――裏で僕がそう呼ぶほどに、僕をからかうのが好きな奈々未姉は、ニタニタとしながら階段を上って行った。どうやら今日は彼女が言うように、機嫌が良いようだ。僕はホッと胸を撫で下ろすと、パンツ一丁でまずは風呂場に向かった。
洗濯機にYシャツや靴下、Tシャツにハンカチを入れる。パンツも入れたかったが、一旦自室に戻るため、そのまま身に着けておかなければならない。また奈々未姉に見つかったら、今度はどんなことを言われるか分かったものじゃない。
玄関に置いた制服を持つと、僕は階段を上った。
「きゃー。変態が来た」
自室の扉を開けようとしたら、後ろの扉が開き、奈々未姉が棒読みの台詞を言ってきた。僕はウンザリとしながら、部屋の扉を開けた。
さすがに奈々未姉は僕の部屋までは入って来ない。いや、たまに入って来るが、今日は入って来なかった。僕はそのことに安堵しながら、まずは雨で濡れた制服をハンガーにかけて、部屋干しした。
それが終わると、部屋着と下着を持って、廊下に出た。今度は奈々未姉の部屋の扉は開かなかった。
階段を、音を立てて駆け下りると、風呂場へ向かう。早く風呂に入りたくて仕方がなかった。
下着をまた洗濯機に入れると、僕は浴室の扉を開けた。まだ浴槽に湯は溜まっていないが、シャワーだけで充分だ。
熱いシャワーを浴びながら、僕は天気予報の気象予報士を恨んだ。何がところにより雨だ。本降りの雨で、しかも強風が吹くなんて聞いていない。
シャワーを浴びながら僕は、二人のことが頭をよぎった。
一人目は小嶋君で、バイトには濡れずに行けただろうか。確か学校から離れたコンビニだったはずだ。
二人目はもちろん江籠さんで、さすがにコンビニの中にいるだろうから雨に濡れてはいないと思うが、帰りは大丈夫だろうか。
そういえば、二人ともコンビニのバイトをしている。なぜだか、僕はそれに不思議な縁を感じた。