第十章「勇者ハシケン」
04
 さすがにもう一度は揉ませてくれなかったか。落胆を覚えながらも僕は家路に着くことにした。江籠さんに告白するのはまたいつかいいか考え直そう。
 撤退も大事な勇気である。場が敗色濃厚であるならば、潔く撤退すべきなのだ。自分にそう言い聞かせながら、僕は公園を出ると、見慣れた人を見つけた。
 
「あれ。久しぶりじゃん。元気してた」
 
 小さい子供のように舌足らずな喋り方をする彼女――はるっぴさんとバッタリ出くわした。
 
「ええ、まあ」
 
 奈々未姉に壺を割られたこともあってか、僕は出来ることならもうはるっぴさんとは会いたくなかった。会いづらいといった方が正しいか。
 
「偶然だね。そういえば、あの壺のご利益あった?」
 
「ああ、まあ……」
 
 曖昧(あいまい)に僕は返事した。ご利益は合ったように思えるし、かといってあれがご利益なのかさえもう分からないでいる。
 
「良かったじゃん。じゃあ、もう一個買っとく?」
 
「いやあ、さすがに一個で十分ですよ」
 
 また壺を買ってきたら奈々未姉になんて言われるか。せっかく家族仲が回復してきたというのに。
 
「でも、その割には思いつめた顔をしてるね。お姉さんに相談してみたら。もちろん相談料は取るけどね」
 
 お金を取ると聞いた瞬間、僕はないなと思った。しかも以前この人は胸を揉ませてくれなかったし。
 
「ご遠慮しておきます。それじゃあ」
 
「ああ、待ってよ。ジュースで我慢してあげるから」
 
 去ろうとする僕の腕ははるっぴさんに掴まれた。
 
「我慢てなんですか、我慢て。我慢するぐらいならいいですよ」
 
「ちょっと。待ってよ」
 
 そのまま強引に歩き出そうとすると、僕の腕を掴むはるっぴさんの力が強くなった。
 
「なんですか、もう」
 
「喉が渇いたの。ジュース買って」
 
「喉が渇いたのなら、最初からそう言えばいいじゃないですか」
 
 脱力した僕に気を良くしたはるっぴさんは、そのまま僕の腕を取ったまま近くの自動販売機まで歩いた。女性に腕を組まれたまま歩く日が来るなんてと、僕は辺りを見渡したけど、相変わらず子供たちがはしゃぎ回っているだけだった。
 
「これがいい」
 
「一番高いのを選ぶなんて、はるっぴさんに遠慮という言葉はないんですか」
 
「ない」
 
 きっぱりと言われてしまった僕は、渋々二百円を入れた。
 
「サンキュー。君も飲んでいいよ」
 
「自腹を切るだけでしょ」
 
「そういうこと言わない」
 
 肩を何度も叩かれながら僕は缶コーヒーを買った。
 
「コーヒーなんて飲めるんだ。大人」
 
 感心したようにはるっぴさんは言った。
 
「はるっぴさんは飲めないんですか」
 
「飲めて飲めないことはないけど、ジュースの方がいいかな」
 
 ゴクゴクと美味しそうに買ってあげたジュースを飲むはるっぴさんを(なら)って、僕も缶コーヒーをグイッと飲んだ。

■筆者メッセージ
早寝早起き。
最近はちょっと頑張ってストックを溜めております。


T2さん

いや、あくまでツイッター上での遊びですからね。
別に作品どうのっていうわけじゃありません。
ついでに、彼女はあまり好きじゃないです。
( 2015/12/13(日) 07:28 )