04
さすがにもう一度は揉ませてくれなかったか。落胆を覚えながらも僕は家路に着くことにした。江籠さんに告白するのはまたいつかいいか考え直そう。
撤退も大事な勇気である。場が敗色濃厚であるならば、潔く撤退すべきなのだ。自分にそう言い聞かせながら、僕は公園を出ると、見慣れた人を見つけた。
「あれ。久しぶりじゃん。元気してた」
小さい子供のように舌足らずな喋り方をする彼女――はるっぴさんとバッタリ出くわした。
「ええ、まあ」
奈々未姉に壺を割られたこともあってか、僕は出来ることならもうはるっぴさんとは会いたくなかった。会いづらいといった方が正しいか。
「偶然だね。そういえば、あの壺のご利益あった?」
「ああ、まあ……」
曖昧に僕は返事した。ご利益は合ったように思えるし、かといってあれがご利益なのかさえもう分からないでいる。
「良かったじゃん。じゃあ、もう一個買っとく?」
「いやあ、さすがに一個で十分ですよ」
また壺を買ってきたら奈々未姉になんて言われるか。せっかく家族仲が回復してきたというのに。
「でも、その割には思いつめた顔をしてるね。お姉さんに相談してみたら。もちろん相談料は取るけどね」
お金を取ると聞いた瞬間、僕はないなと思った。しかも以前この人は胸を揉ませてくれなかったし。
「ご遠慮しておきます。それじゃあ」
「ああ、待ってよ。ジュースで我慢してあげるから」
去ろうとする僕の腕ははるっぴさんに掴まれた。
「我慢てなんですか、我慢て。我慢するぐらいならいいですよ」
「ちょっと。待ってよ」
そのまま強引に歩き出そうとすると、僕の腕を掴むはるっぴさんの力が強くなった。
「なんですか、もう」
「喉が渇いたの。ジュース買って」
「喉が渇いたのなら、最初からそう言えばいいじゃないですか」
脱力した僕に気を良くしたはるっぴさんは、そのまま僕の腕を取ったまま近くの自動販売機まで歩いた。女性に腕を組まれたまま歩く日が来るなんてと、僕は辺りを見渡したけど、相変わらず子供たちがはしゃぎ回っているだけだった。
「これがいい」
「一番高いのを選ぶなんて、はるっぴさんに遠慮という言葉はないんですか」
「ない」
きっぱりと言われてしまった僕は、渋々二百円を入れた。
「サンキュー。君も飲んでいいよ」
「自腹を切るだけでしょ」
「そういうこと言わない」
肩を何度も叩かれながら僕は缶コーヒーを買った。
「コーヒーなんて飲めるんだ。大人」
感心したようにはるっぴさんは言った。
「はるっぴさんは飲めないんですか」
「飲めて飲めないことはないけど、ジュースの方がいいかな」
ゴクゴクと美味しそうに買ってあげたジュースを飲むはるっぴさんを
倣って、僕も缶コーヒーをグイッと飲んだ。