第十章「勇者ハシケン」
02
「まあまあ。ちょっと歩きましょうや旦那」
 
 背中を押されて僕はコンビニとは正反対の方向へ歩かされた。
 
「ちょっと。僕はこの後予定があるんですけど」
 
「あの子のところに行くの? ええと、なんていう子だっけ?」
 
「江籠さん」
 
「ああ、そうそう。あの日本人形みたいな子ね」
 
 隣り合って並ぶと、今日は告白しない方がいいのかなと思い始めた。何をやっても上手くいかない日というのがある。暦でいえば、仏滅みたいなものか。
 そう考えると、胸に沈殿された重みがスーッと軽くなっていくようだ。考え方次第で人はどうとでもなる。
 
「あんたも好きねえ」
 
 脇腹を肘で小突かれる。僕はわざとらしく咳払いすると、思い切って白間さんに言うことにした。
 
「ええ。今日、告白しようと思ってました」
 
 それを言うと、白間さんが立ち止まって僕のことを見た。彼女の大きな目が更に大きく見開かれる。それはなんだか目玉の親父のようで気持ち悪いんだけど、面白かった。
 
「マジで?」
 
「マジで」
 
「エイプリールフールはとうに過ぎてるわよ」
 
「嘘じゃないですよ。マジです」
 
「ははー。ついにその日が来たのね」
 
 丸く見開かれた目が戻ると、輝きに満ちていた。
 
「そのつもりだったんですけど、やっぱり今日は止めました」
 
「何でよ。怖気づいた?」
 
「違いますよ。白間さんに呼び出しを食らったのと、今日は仏滅だからです」
 
「仏滅って。なんか年寄り臭いわね」
 
「年寄り臭くて悪かったですね。とにかく今日は日が悪いから止めました」
 
 明日にしよう。明日ならきっと大安のはずだ。暦なんてみていないけど、そんな気がした。
 
「で、どんな風に告白するつもりだったの」
 
「いや、もう当たって砕けろっていうか。コンビニが終わってから何とか二人きりで会って、告白しようかなって」
 
「ふーん。なんか微妙」
 
「やっぱりよく作戦は練った方がいいですかね」
 
 どこへ行くのか分かっていないけど、歩き進める。立ち止まったら何も出来なくなる気がした。
 
「あんまり露骨なのもあれだけど、かといってノープランなのもいただけないわね」
 
「ですよねえ」
 
 かといって、これといった名案が思いつくこともなく、放課後を迎えてしまったわけだ。人に告白をするのが人生で初めての僕は、どうしてもいい案が思い浮かばないでいる。
 
「白間さんだったら、どんな風に告白されたいですか」
 
「そうねえ。諭吉さんをチラつかせながらがいいかしら」
 
 やっぱり奈々未姉とそっくりだ。人のことを(もてあそ)んでいる。
 
「もう。そんなこと言うんだったら帰りますよ」
 
「まあまあ。公園でちょっと休んでいきましょうよ」
 
 通りがかったところには、公園があった。学校を終えたばかりの小学生ぐらいの子たちが元気にはしゃぎ回っている。
 
「公園デビュー」
 
 そう言った白間さんは、パタパタと園内へ走って行ってしまった。彼女の短いスカートから見えた太ももにドキリとしながら、僕はその後に続いた。


■筆者メッセージ
ストックではほぼほぼ書き終えました。
勢いで書いていますので、推敲していきながら載せていきます。
メイドの件は構想だけが膨らんでいます笑
うん。やっぱり自分はキャッキャウフフな小説よりも、どんよりとした暗い小説の方が似合っていますね。
何のことか分からない方は、ツイッターをどうぞ。
( 2015/12/12(土) 18:39 )