01
睡眠不足のはずなのに、気持ちが高ぶっているせいか眠気は感じなかった。淡々と進む授業。時計の針は瞬く間に時を刻んでいく。
授業を聞きながら、僕は告白のプランをずっと練っていた。想い人は、今日は塾ではなく、コンビニにいるはずだった。
さすがにレジで告白する勇気はなかった。出来ることなら二人きりがいい。そうすると、やはりバイトが終わるのを待って、誘い出すしかなさそうだ。
それとも、別の日にしようか。だが、そうするとこの気持ちが萎えてしまいそうだった。
そう。僕は早く伝えたかった。たとえ、玉砕しても今日なら傷口は浅そうだった。物事にはタイミングがある。それを逃してはならない。
今日だ。今日しかない。僕は腹を
括ると、猛然と頭をフル稼働させた。どうすれば、最善策を取れるのか。どうすれば、少ない可能性を広げられるのか。
ノルマンディー上陸作戦だ。最高の作戦を成せば、勝機は芽生える。僕は授業を聞くふりをしながら、作戦を練った。
◇
放課後の喧騒は、僕をどんよりとした気持ちにさせた。結局、何一つ名案を思いつくことなく、放課後を迎えてしまった。
焦りにも似た気持ちが生まれる。このままでは、裸のまま戦場へと向かう羽目になってしまう。
そう思っていた僕の携帯が着信を告げた。誰だと思ってディスプレイを見ると、白間さんだった。
「はい、もしもし」
『学校終わった?』
「終わりましたよ。ついでに人生も」
『は? 何言ってんの。童貞をこじらせ過ぎて頭でもおかしくなった?』
どうも白間さんと奈々未姉は似ているところがある。僕よりもむしろ白間さんの方が奈々未姉と血縁があるのではないかと思うほどに。
「いえ……ところで何の用ですか。お金なら持ってませんよ」
『あたしをカツアゲみたいに言うな。ちょっと近くまで来てるから会おうよ。校門の脇にいるね』
僕の返答を待たずして、電話は切れた。無機質な音に変わったそれを、僕はポケットにしまい込むと、下駄箱へと向かった。
「よっ」
校門の外へ出るとまるで男友達がするように、片手を上げて白間さんが出迎えてくれた。
「で、何の用ですか。電話でも言いましたけど、今月はちょっと厳しくて」
「だからカツアゲじゃないって。しかもこんなところで言わないでよ。本当にそうしていると思われちゃうじゃない」
そう言いながらヘラヘラとしている白間さんを見ながら、僕は嫌な予感がしてならなかった。奈々未姉もそうだが、変に笑顔が多い時ほど危険な日はない。
まして、奈々未姉に似たところのある白間さんならなおさらのことだ。