06
明け方の空になってきた。カーテンの隙間から漏れる光。どこからか犬の鳴き声とオートバイの音が聞こえてきた。
傍らで眠る奈々未姉。結局、あのあとも僕たちはお喋りを続けた。お互いくだらない話だった。僕たちの会話なんて所詮、短いテリトリーでの出来事でしかないのだ。
エアコンの微風が奈々未姉の髪を揺らす。僕は奈々未姉にかかっている毛布を直してあげた。そうすると、彼女はうっすらと笑った。
楽しい夢でも見ているのかな。穏やかな奈々未姉の寝顔を見ながら、僕はその隣にそっと身を置いた。
横からは奈々未姉のにおいがする。鼻いっぱいにそれを吸い込むと、僕はもしかしたら自分がシスコンなのかもしれないと思った。
なんだかんだ言って、いつも奈々未姉のすることを許してしまう。殴られようが、蹴られようが、上から圧し掛かられようが。童貞扱いを受けても、インポ扱いを受けても僕は奈々未姉のことを嫌いになれなかった。
――奈々未姉のことが好き?
そうかもしれないけど、それはあくまで血縁の姉として、だ。越えてはならない壁を越えようとは思わない。家族愛に過ぎない。
僕の好きな人。それはやっぱり――。
「ん? ああ、寝ちゃった」
奈々未姉の目がパチパチとすると、彼女はグッと身体を伸ばした。彼女が動くだけで、芳香剤のように彼女のにおいが広がる。
「変なことしなかった?」
「してないよ」
起きてすぐも、奈々未姉はやっぱり奈々未姉だった。
「あっ、パンツがない」
「嘘つけ」
へへへと笑いながら奈々未姉は僕の腕を引っ張ってまくら代わりにした。
「セックスし終ったあとみたいでしょ」
「童貞なんで分かりません」
ドラマや漫画であるようなシーンで、奈々未姉の言う通り事後を表しているようだ。
「意外といいものよ。好きな人に抱かれて、好きな人とこうして余韻に浸れるっていうのは。あんたも体験出来るといいわね。もちろん強引にはダメよ。あくまで合意の上でね」
「分かってるよ」
「まあ、あんたが女の子を襲うなんて想像出来ないけどね」
「自分でもそう思う」
そう言い終わると、ひとしきりの間、僕たちから会話が途切れた。
やがて外からまたオートバイが走る音が聞こえると、僕は口を開いた。
「告白しようと思う」
「いいじゃない。砕けたら骨は拾ってあげるわよ」
「玉砕する前提なの?」
「そっちの方が面白いから。まあ、頑張って来なさい。あたしの弟なら成功するはずよ」
「プレッシャーに弱いんだよ、僕は。そんなプレッシャー与えないで」
「しょうがないわねえ」
横でモゾモゾと動く気配を感じた。隣を見ると、奈々未姉の顔が間近にあった。
「頑張れ、童貞」
僕が覚えている限り、それは三度目の口付けだった。