02
湯船に浸かりながら、僕は白いタイルを見続けている。背後から絶えず聞こえてくるシャワーの音を聞きながら、僕は体育座りで奈々未姉が身体を洗い終えるのを待っている形だ。
振り返ったら殺すと脅された僕は、さっきからずっと白いタイルを見ている。なんで我が家の風呂なのに、僕だけこうしていなければならないのか。
「ねえ、まだあ」
シャワーの音に負けないように、僕は大きな声を出す。
「まだ。早漏は嫌われるわよ」
髪の毛が長い訳でもないのに、どうしてこんなにも時間がかかるのだろう。いい加減にしないと僕はのぼせてしまう。
「のぼせちゃうよ」
「その時はその時よ。安心しなさい。介抱してあげるから。救急隊の方がね」
奈々未姉じゃないのかよ。僕はわざとらしく溜め息をつくと、後頭部が焼けるような感覚を覚えた。
「熱い!」
「ああ、ごめんなさーい。手元が狂ったわ」
棒読みの台詞が聞こえてもなお、僕は背後を振り向かなかった。我ながらずいぶんと調教をされてしまったものだ。
ああ。これが江籠さんとのお風呂だったら。初体験を済ませたばかりのホテルの一室。恥ずかしがる江籠さん。
「ほら、浴槽はタオルで入っちゃダメだよ」
白いバスタオルを巻いた江籠さんは、僕の言葉に顔を左右に振った。
「ダメ。恥ずかしいよ」
「一緒に身体を重ねた仲じゃないか」
行為が始まる前、彼女がどうしても室内を真っ暗にして欲しいと懇願したものだから、僕は彼女の一番大事な部分を見れなかった。
本当は見たくて仕方なかった。江籠裕奈を五感で感じたかった。けれど、あんまりしつこく見たいと言って、彼女との行為が出来なくなることの方が避けたかった僕は、不承不承ながら電気を消したのだ。
行為が終わるや否や、彼女はさっさと下着を身に着け、バスタオルで身体を隠してしまった。暗がりの中、彼女の素早い行動に僕は付いていけず、結局は裸を見れずじまいだった。
それでも、お風呂へ一緒に入ろうと頼み込み、何とか彼女を浴室へ連れて来たのだ。もうチャンスを逃さまいと、僕も必死だった。
「恥ずかしいよお」
「大丈夫。裕奈の身体は綺麗だから。僕が保証する。さ、裕奈の全てを見せてよ」
彼女の肩を抱き、そっと耳元で
囁くと、やがて彼女はゆっくりと頷いた。
「あんまり見ないでね」
バスタオルに彼女の細い手がかかり、ようやく神秘のベールが剥ぎ取られようとする……。
「何ニヤニヤしてんのよ」
頭がガッと押さえつけられると、僕の妄想はその一言と共に、湯船の中へと沈められた。