09
いつの間にか外に吹き付ける風が熱気をまとわなくなっていた。あれだけ暑い暑いと言っていた外の声もいつしか聞かなくなっていた。
「夏、終わったな」
そう言いながらもアイスキャンディーをペロペロと猫のように舐める菜緒はTシャツにショートパンツ姿だ。
「その格好で言われても説得力に欠ける」
「どんな格好したってええやん。ほら、生足やで。好きやろ」
見せつけてくる菜緒を横目にレポートの束を見つめため息をつく。
「ため息ばかりしてたら幸せが逃げていくばかりやで」
「菜緒はこのレポートの数を見て何も思わないのか」
僕は知っている。この束の中に菜緒が自分の分をしれっと混ぜているのを。彼女は見つかっていないと思っているだろうが、僕はその光景を確かに見ている。
「ご苦労」
「ご苦労じゃないよ。まったく、あの授業もう受けるの止めようかな」
ボソボソと喋る某教授の授業は数少ない生徒がほとんどといっていいいほど寝ている。某教授はそれに関して何も言ってこない割にレポートだけは鬼のように出してくる。
おかげで前期は大量にいた学生たちも夏休みが過ぎれば大半姿を消すのが恒例だと聞いていたが、その話は本当だったようだ。
「寝ても文句を言わないくせにこういう嫌がらせをしてくるんだもんな。なあ、菜緒」
愚痴が止まらない僕は彼女に同意を求めた。が、彼女は目を閉じたまま返事をしなかった。
「まったく。自由な奴だ」
足をプランプランさせる菜緒の太ももを撫でてやると、止めろといわんばかりに手を払ってきた。
「太ももくらいいいじゃないか」
一向に進まないレポートに目を背けると、僕も菜緒を倣って目を閉じた。