本編
05
 何とか話題を逸らそうとするが、そのたび会話は脱線こそしてくれるのに何かの拍子でまた元に戻ってしまう。まるで磁石のようだ。

「で、小坂とは最近どうなんだよ」

「もう何度目の質問だ?」

「確かそんなような歌あったな。アイドルの」

 知っていた。タイトルもわずかに違うが、どこのアイドルが歌っているかも。
 女性アイドルが好きな菜緒はたまに口ずさむし、スマホから音源を流すこともあった。けれどそれを言おうものならまた彼の興味関心を惹いてしまう。

「さあ」

 まだ湯気の立つコーヒーを啜る。注文してから結構時間が経ったとは思うが、未だカップの中身は熱々だった。
 次郎から二杯目を誘われて冷たい飲み物に加え、店内のエアコンの風を受けてホットコーヒーを頼んでしまった。これでは長居をしますといっているようなものではないか。注文を終えてからそれに気づいた僕は、自身の失態を後悔した。

「気になるんだよ。カップルがどうしているのかって。そんなケチケチしないで教えてくれたっていいじゃないか」

 僕に倣ったのか、次郎もホットコーヒーを注文していた。が、砂糖もミルクも入れない僕に対し次郎は「それならくれよ」と僕の分までミルクを取り、たっぷりの砂糖とともにコーヒーに注いだ。
 最初は黒かった液体もすっかりと茶色く変わってしまったそれを次郎は啜った。こちらまで聞こえる音で。

「何もカップルは僕たちだけじゃないだろ。大学構内でもたくさんいるし、そこら辺を歩いているカップルなんていくらでもいるじゃないか」

「お前いきなり見ず知らずの奴が『最近いかがですか?』なんて話しかけてみろよ。どうなると思う」

「まずはSNSで拡散されてそのあと夕方のニュース番組行きだな。よかったじゃん。晴れて全国区だ」

「不名誉極まりない名誉だな」

 僕の悪ふざけに怒るわけでもなく気分も害することもないように次郎の表情は変わらなかった。

「しかしそんなカップルの事情を聴いたって何も変わらないって」

「何かを変えたいわけじゃない。ただ知りたいだけだ」

 真面目な表情を崩さない次郎を見ていられなくて、視線を逸らした。

「別に普通だよ、普通。特に面白いネタになるような話はない」

「ネタなんて求めていない。ただこういうデートをした。デートではこういう会話をしたとか、他愛のない話が聞きたいんだ」

 恋愛に憧れがあるのか、中学生のようなことを言い出す次郎に僕はどうしたものかと悩むと同時に、ここ最近の菜緒とのやり取りを思い浮かべた。


■筆者メッセージ
誤字ってましたね。
まあ、気にしない気にしない。
( 2022/08/11(木) 00:23 )