01
あなたを初めて招き入れる。さっきまで生きていたあなた。今はもう死んでしまったあなたをグランドピアノの横にそっと横たわらせた。ふわりと漂う香しいにおい。
麝香のようなにおいに、私の後頭部は痺れるような感覚を覚える。
スキーウェアを脱がせると、あなたの体はまるで少年のような細さだが、小ぶりな胸がセーター越しから見えた。少女から女性へ。もう成長のしないその体を慈しむように撫で、私はピアノを弾き始めた。
あなたの前で奏でる『エリーゼのために』。あなたと出会ったこの曲を鎮魂歌として、あなたに捧げる。大事な場面だというのに震える両手。滲む視界のせいで、何度もタッチミスをしてしまう。
これを聴いたあなたはどんな反応を見せるのだろうか? 下手な演奏に耳を塞ぐ? 嘲笑する? それとも優しく教えてくれるのだろうか……。
演奏が終わった。あまりに短く、拙い鎮魂歌。私は溢れ出る涙を拭うことなく、あなたの横に座った。
死んでいるはずのあなただというのに、私は緊張で心臓が張り裂けそうだ。そっと抱えるように持ち、私にもたれかからせると、髪のにおいが鼻腔を刺激した。この部屋には私たちしかいないというのに、辺りを見渡し、誰もいないことを確認すると、そっとあなたの頭を撫でた。
まるで恋人のようだ。私の肩でもたれかかるあなたは眠っているようにも見える。右肩に感じる確かな重み。左手に伝わるサラサラとした毛髪の感触。すべてが愛おしく、すべてが新鮮だ。
カーテンのかけていない窓からは雪が深々と降り続いている。こんなに降る日も珍しかった。あなたがこの世からいなくなってしまったことを、空は嘆いているのだろうか?
「生田さん、あの、キスをしていいですか?」
あなたからの返事はもちろんない。私はそれを肯定と受け取り、あなたの唇のそっと唇重ねた。初めてするキス。
ファーストキスの味はレモンではなく、ミントのような清涼感だった。