第五章
01
 あなたの様子がおかしいことに気付いた。おそらく他人では分からないほどの変化。長年あなたを見て来た私だからこそ分かった機微は、警報を告げていた。嫌な胸騒ぎを覚えた私は、いつもに増して注意深くあなたのことを監視するようにした。
 同級生たちとスキーに行くことが分かったのは、それからすぐのことであった。たまたま立ち寄ったファーストフード店で、あなたの同級生たちがあなたとスキーに行くという話をしていたからだ。
 
 なぜあなたが彼らとスキーに行くのか分からなかったが、私も着いて行くことにした。なぜだか、そうしなければいけないような気がしていたからだ。
 あなたが遠くへ行ってしまう――彼女たちの話に耳をそばだてながら私はそう感じてならなかった。遠く、離れたところ。私の手では届かないところへ行ってしまうあなたを私はただ黙って見送るつもりは毛頭ない。
  
  
  
 こんなにも朝早く起きたのは久しぶりのことであった。眠気と戦いながら、何とか体を起こすと外に出た。
 凍てつくほどの寒さ。この冬一番の寒さではないだろうか? コートを抱きしめるようにして歩くあなたの後をつけた。
 
 駅にはファーストフード店にいた彼女たちがすでに待っていた。だがあと一人足りないように見える。あなたは彼女たちと自動販売機で飲み物を買っていたところを見ると、どうやらひとりは遅刻してくるようであった。私はあなたから離れた場所にて、一緒にあと一人を待った。
 やがてあなたたちは駅構内へ入って行った。やはり寒さに耐えられなかったようだ。無理もない。粉雪が舞い始めるほどの天気なのだから。私もあなたたちに見つからないよう、こっそりと後を追った。
 
 一人の女性が息を弾ませながら走って来た。深く被ったニット帽からはみ出した髪の毛はボサボサだ。彼女はしきりに謝っていた。もちろん彼女は私に謝ることはない。
 一緒に待っていたという気持ちはあるが、やはりあなたとの距離を感じてしまう。自分が勝手について来たというのに、なんとわがままな人間なのだろうか。
 
 そんな私のことなど知る由もないあなたはようやく来た電車に乗った。何かを企んだ顔をしているのが気になって仕方がなかった。


( 2013/10/28(月) 21:16 )