第四章
04
「ごめん!」
 
 最後の一人がようやく来た。走って来たのだろう。その息は弾んでいる。
 ようやく全員が揃った。電車もすぐに来るようなので改札を抜ける。
 
「もう遅いよ。このまま来ないかと思ったじゃない」
 
「ごめん。寒くて起きられなかった。生田さんもごめんね。せっかく来てくれたのに」
 
「ううん。いいよ」
 
 遅れて来た彼女は心底申し訳ないといった様子で何度も謝っている。私は彼女に対して怒っているわけではないのだが、怒っているように見えてしまっているのだろうか。
 緊張はしている。彼女たちとのスキーの緊張ではない。これから自分が起こそうとしていることに、だ。遅れて来た彼女は取り返しのつかないミスをしたかのように謝罪を繰り返しているが、私は彼女以上に迷惑がかかることをやろうとしている。
 
 まだ止められる――心を入れ替え、彼女たちと純粋にスキーを楽しむことも可能だ。高くそびえ立っていた壁は壊されつつある。私の行動次第では、もっと壁を壊すことも出来るだろう。
 
「どうしたの? 生田さん」
 
「なんでもないよ。ただみんな仲良しだなって思っただけで」
 
「まあ、小学生の頃から私たち一緒だったしね。腐れ縁ってやつ?」
 
「いいよね。そういうの。うん、憧れる」
 
 素直にスッと出た一言。きっとこれが私の本音なのだろう。飾らない一言は、彼女たちに憧れている証拠。私が求める自由の翼を彼女たちは持っているのだ。
 
「電車が来たよ」
 
 粉雪が舞う空の下、翼を持っていない私は電車に乗り込んだ。これから翼を手に入れるために。


( 2013/10/18(金) 21:40 )