第一章
04
 私に特殊な性癖などないと思っていた。ましてや相手は小学生。性癖の中でも特殊中の特殊に値することだ。人としての倫理が私を食い止めようとしていた。が、それを私は止めることが出来なかった。彼女のことが知りたくて、私は彼女の後を付けた。
 トボトボと歩く小さな背中。その背中を追いつつ、私は滅多に鳴らない携帯電話を操作する振りをしながら尾行した。
 
 少女の足が止まったのは大きな一軒家であった。白を基調とした洋風の家。周囲の家よりも大きく見受けられた。少女はポケットから鍵を取り出し、玄関を開け、中へと入って行った。少女を見送った私は表札を眺める。そこには『IKUTA』と表記されていた。
 彼女の名字を知った私の耳に飛び込んできたのは、ピアノの音色であった。どこかでピアノを弾いているのかと、その音の先を探すために視線を左右に振れば、音が上から聞こえてくるのだと分かった。
 
 彼女が弾いている。私はそう直感し、顔を上げた。開け放たれた窓からピアノの音色が確かに聞こえる。今でもその情景を昨日のことのように思い出せる。曲目は『エリーゼのために』。ベートーヴェン作曲のこの曲は小学生でも弾きやすい。
 私はピアノについては素人だ。だがそんな私でも彼女の演奏は上手く感じた。幼い彼女の手が必死に鍵盤を叩いているのを想像すると、笑みが零れ落ちた。それは初めてのこと。父と同じく感情表現に乏しい私、喜怒哀楽が少なく、ロボットのようだと学生時代に揶揄(やゆ)された私が自然と微笑んでいたのだ。
 
 彼女のことを知りたい――いつ帰宅したのか覚えていないが、私は強烈にそれを願ったことだけは覚えている。まるでそれは初恋のようだ。そう、私は自分よりも一回り以上歳の離れた彼女に一目惚れをしたのだ。
 情けない話かもしれない。大の男が小学生に恋をするなど、頭がおかしい人間だと思われて当然のことだ。ましてその後、ストーカー行為にまで発展するなど、言語道断であろう。
 
 しかし、私は自制をすることが出来なかった。少女が大きくなるのを喜びとし、また美しくなっていくのを見るのが何よりの楽しみに変わっていたからだ。
 あの衝撃の出会いから早いものでもう五年も経とうとしている。彼女を見続けた五年。十六歳となった彼女の美貌は天井知らずのように増していっている。
 
「エリカ。生田絵梨花……」
 
 最愛の彼女の名を呼ぶ。もちろん返事は返って来ることはなかった。


■筆者メッセージ
ここでは様々な作品がありますが、乃木坂はどうなんでしょう?
ファンは少ないのでしょうかね?
( 2013/09/23(月) 01:00 )