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美月と初めて行為をした時のように愛佳を求めた。愛佳もまた僕を求めてくれた。世間体やら体裁は欲望を吐き出すごと消えていく。
けれど消えたはずなのにふとした瞬間にパッと、まるで唐突に飛び出してくるかのように僕の頭の中で美月への裏切り行為だと警告してくるのだ。
「どうしたの? またしたくなっちゃった?」
僕に腕枕をされる愛佳はそう言って男性器を撫でてくる。射精したばかりでまだ敏感さが残る性器は、自分の意志とは関係なくひとりでにピクンと跳ねた。
「いや、今日も気持ちよかったなって」
そう言って愛佳のほうを向くと彼女は白い歯を覗かせた。
「嬉しいな、そう言われると。美月よりも気持ちよかった?」
「それは意地悪な質問だ。ノーコメントで」
それ以上追及するなといわんばかりに僕は愛佳の唇を奪った。言葉を塞ごうとした唇からニュルンと舌が伸びてきて僕の舌と交わりあった。
愛佳の手はまだ僕の男性器を優しく撫でまわしている。少しずつ血液が集まり始めているのを感じると、塞いだ唇同士から息が漏れた。
「大きくなってきた。まだまだ元気だね」
「昔ほどじゃないって。愛佳が魅力的だからかな」
恥ずかしいほど歯の浮くような台詞でも自然と言えるのはセックスという行為をした後だからなのか、愛佳との関係性だからなのか、互いに裸のままベッドに横たわっているからなのか。
「今日はずいぶん嬉しいことばかり言ってくれるね。そろそろもっと嬉しい言葉を言ってくれるかしら」
悪戯っぽい笑みを浮かべる愛佳が求めている言葉を僕は痛いほどわかっている。けれどその言葉を言うのは決して許されるはずがなかった。
「何かな。今日も愛佳とこうしていられて僕は幸せ者だよ。とか」
「……本当はわかってるくせに」
言葉を選んだのか、出てこなかったのか。時間にすれば一瞬の、それでもそのわずかな時間の中に愛佳は様々な想いがあふれ出ようとしているのを必死にせき止めたような顔をした。
それもすぐに表情を緩めたのは諦めなのか、悲しみなのか。たまらず僕は彼女のことを覆いかぶさるようにして抱きしめた。
「あったかいね」
愛佳はされるがままといった様子で僕の抱擁を受け入れるでもなく拒絶するでもなく、ただ人形のように僕の腕の中に抱かれていた。