07
志田愛佳とは大学時代に知り合った。同じゼミで当時は黒髪で長さももう少し長かったような気がする。そういえばと、確かに当時から丈の短いスカートであったり、デニムのショートパンツであったり比較的露出の多い服を好んで着ていたのを思い出した。
「なあに。ちょっと視線がエロいんだけど」
煙草を吸う姿が堂に入っていた。当時は吸っていなかったはずだ。
「煙草、吸ってたっけ?」
「ああ、元カレの影響。恋は終わっても煙草は切れないんだよね」
自嘲する愛佳は僕の隣に並んだ。
「そっちは?」
「就活と仕事でのストレスかな」
喫煙所で知りえる情報もある。飲みニケーションみたいなものだと大学時代先輩に言われ、喫煙を始めた。社会人になってからも手放すどころか携帯電話よりも大事な存在になっている。
「美月とは上手くいってる?」
「結婚した。で、まんまと騙されてここへ来た、と」
吸い終わった煙草をポイっと投げ捨てる。
「なにそれ。受けるんだけど」
ケラケラ笑いながら愛佳も煙草をポイっと捨てると、もう一本ちょうだいと人差し指を立てて懇願してきた。
「今やマスオさん状態さ。愛佳は結婚してるの?」
「バツあり」
「そっか。ま、結婚なんてギャンブルみたいなものだからな」
そう言いながら僕もこの生活があと何年続くのだろうと思った。恋人時代と違って美月だけを愛していればいいだけではなくなってしまった。
「仕事は? まさかプー?」
「まだ最初に入った商社にいるよ。っていってもオフィスは縮小。今後はテレワークを中心とするって。ま、簡単に言っちゃえば弾き飛ばされたんだよね」
出世コースから外されたのは明白だった。一生懸命働いてきたつもりだが、会社としての貢献度でいえば同僚や先輩、後輩にも劣っていた部分があった。
縮小されたオフィスに残っているのは会社の中でもエリート中のエリート。凡人はしがない田舎町へ飛ばされてしまったのだ。
「よくわかんないけど、サラリーマンって感じがするわ」
「そういう愛佳は?」
僕の問いかけに愛佳は鼻で笑った。
「サービス業といえばサービス業かな」
「サービス業か。今の時代、そっちも厳しいんじゃないか」
「どこの世界だって厳しいわよ。ま、あたしの場合自業自得の部分もあるけど」
ヘラヘラとしながらもどこか寂しそうな顔つきだった。
と、ポケットに入れた携帯電話が着信を告げた。どうやら旧友たちとの昔話は終わったようだ。
「そろそろ行くよ」
「連絡先教えて」
「あれ? 携帯に入ってなかったっけ?」
「昔の携帯無くしちゃったから」
既婚者ではあるが、美月だって知っている相手だからいいだろう。僕たちは互いの連絡先を交換した。
「近いうちに会おうよ」
「いいよ。美月も誘おう」
愛佳はかぶりを振った。
「いや、久しぶりだから最初は二人で会おうよ。また連絡するから」
言うや否や愛佳はさっさと行ってしまった。
久しぶりに会った旧友の連絡先を見る。写真はケバケバしい化粧をした愛佳が映し出されていた。