05
社会人となった僕は日々の仕事に忙殺されながらも美月との愛を育んだ。そして一年が経ち、ようやく僕は美月と結婚をすることができた。
まだ早いのではないか。そんな声も聞こえてきたが、僕に迷いはなかった。僕のプロポーズを聞いた美月は目から落ちる涙を拭いながらこの愛を受け入れてくれた。
順調だった。仕事も振り回されることも多かったが、任されることも増え、充実感があった。美月との関係も良好で、両家の挨拶も済ませた。一人娘の美月だったが、彼女の両親も結婚に賛成してくれた。
結婚に向けた準備は滞りなく進んでいった。ただ、その過程の中でどうしても引っかかることがあった。
それは美月の両親だった。結婚を反対しているわけでもなく、むしろ賛成している彼らだがことあるごとに新居はどこにするのか尋ねてきた。
美月も僕も仕事があるからお互いの職場から通えるところにする予定だった。しかし彼女の両親はこちらへ移住してこないと提案をしてきたのだ。
美月は仕事があるからといいつつも、どこか夢見ているようだった。確かに実家の近くで暮らせればいいだろうが、僕の立場はどうなるというのだ。
そうだ。きっと歯車を全て狂わせたのはあの提案に違いない。奴らがあんなことを言い出すから僕の人生プランは大きく狂わされてしまったのだ。
当時を思い出すだけでムシャクシャしてきた僕はアイコスを取り出した。寝ている美月など起きやしないだろう。
ビールをグイっと飲み干し、アイコスを口につける。と、ふいに美月の目が開いた。暗がりの中でも彼女が起きてしまったのが見えた。
「あんまり吸いすぎないでよ」
てっきりまた怒られると思ったが、美月はそれだけ言うと再び目を閉じた。まだ吸い始めても間もないが、彼女に悪い気がして僕は吸うのを止めた。
「ごめんな」
布団の中に入り美月の頭を撫でる。付き合い始めた頃は長かった髪も手入れが面倒だからとここ数年伸ばすことはなくなっていた。
それでも美月の可愛らしさは変わらない。指通りのいいサラサラとした髪の毛も。僕は今でも美月のことを愛している。
ただ、美月の両親は気に入らないだけだ。