03
日に日に美月はやせ細っていくように見える。元からやせ型なのにまるで骨と皮のようだ。
「ああ、来てくれたの」
「動かなくていいよ。はい、お土産」
「ありがとう」
僕の手から袋を取ろうと伸ばす手は老木のように細くて、握った瞬間に折れてしまいそうだ。と、美月が袋を持った瞬間、彼女の手からスルリと抜け落ちてしまった。
「あっ、ごめん」
「いいよ」
力が入らないのか。床に落ちた袋を取ると、ベッドへと置いた。
「今日も授業?」
「ああ。でも午前までだったから。バイトまで時間あるから美月のところへ行こうかなって」
「嬉しいけどこんな姿見られるの恥ずかしいな」
「大丈夫さ。僕と美月の仲じゃないか。食べる?」
袋からミカンを取り出す。地面に落ちてしまったせいで窪みができてしまった。
「食欲ないからあとでもらうよ」
「そう言って食べないんだろ。食べなきゃ治らないよ」
皮をむく。柑橘の香りがふわりと広がった。
「……どうせ治らないよ」
「変なこと言うなって。もうちょっとの辛抱だよ」
「そう言って何か月が経つの? 全然治る気配がないし、毎日毎日注射ばかり打たれて、私もう嫌。生きてたくないよ」
顔を手で覆う美月に僕は見ているのが辛くて視線を背けた。
「気持ちはわかるけど、今が一番頑張り時なんだって。先生も言ってただろ? ほら、泣かないで。ミカン美味しいよ」
一切れのミカンを渡そうとした手は振り払われた。
「いつまで頑張ればいいの。あと何日? 何時間? 地球が何回転したら?」
「そんな子供みたいなこと言うなよ。もうちょっとはもうちょっとだから」
「修一っていつもそう。わかってないくせにわかったフリして。楽しい? 人が苦しんでいるのを見て」
「そんなことないって。なあ、美月。落ち着けよ」
ミカンを置き美月の肩を抑えようとすると、彼女はまた僕の手を振り払った。
「……出てって」
「でも」
「出てって!」
「ごめん。また来るから」
布団にくるまってしまった美月に背を向けると僕は病室を後にした。