03
プレハブ小屋から出るとニタニタとした愛佳がいた。美月がニヤニヤなら、愛佳はニタニタとした笑い方が特徴だ。
「愛の共同作業とは。仲がよろしいことで」
「これが愛の共同作業というのなら、全く見当違いの愛だな。単なるパシリだよ、これは」
「でも満更でもない修一君でしたっと」
「勝手にまとめるな。あと部活をサボっていいのか」
バレー部に入る愛佳はレギュラーと控えを行ったり来たりしているらしい。本人はそこまでレギュラーに執着は無いようだった。
「休憩中だし。あと別にうちのバレー部はそこまで熱がないから。せいぜい部長ぐらいじゃない、カッカカッカ熱を帯びてるの」
「守屋先輩だっけ」
「そ。熱血漢っていうか、負けず嫌いなのよね。それならなんでうちの学校選んだんだか」
強豪校でもなければそれほど弱小校でもないうちのバレー部に一人だけやる気の塊のような人がいる。それが三年の守屋先輩だった。
「さあな。なんかあったんだろ」
愛佳のように所詮は部活の一環と捉える人もいる中で、きっとトラブルが多いのは想像に容易かった。きっと美月が入れば三日も持たずに退部することだろう。
「まあ、私嫌いじゃないけどね。悪く言う人もいるけどさ。ああいう人も必要じゃん? よくわからないけど」
愛佳はどちらかといえば人は人、自分は自分といったタイプだ。ドライというか、初対面の人からはそっけない、冷たいと思われることが多いのは頷けた。
「それでいいんじゃない。特に僕みたいな部外者が口を出すことでもないし」
「おーい。なに油売ってるのよ」
ゴミ袋を片手に美月がこちらへ向かってくる。
「おっ、愛しの恋人さんの登場だ。部外者はこの辺で」
ニタニタとした笑みを浮かべて愛佳は体育館へと行ってしまった。
「だから恋人じゃない」
その背中に向かって言ったが、何の反応もなくて聞こえているのか聞こえていないのかはわからなかった。