「始まり」
08
 空っぽだった。幼馴染を亡くした喪失感は僕の体から全てを奪ってしまったようで、何をする気力もないまま時間だけが経っていった。
 棺の中で喋らなくなってしまった美月を見て涙があふれ出た。減らず口をたたいていた口元は死化粧が施され今にも喋りだしそうなのにその口元は開くことはなかった。

「あのさ、美月に黙っていてって言われてたことがあるんだよね」

 突然すぎる美月との別れから何日が経っただろう。日付の感覚などとっくになくしていた僕はある日愛佳に呼び出された。
 夜の公園。学校から一番近いこの公園に呼び出されて開口一番、愛佳はそんなことを言い始めた。

「なんだよ」

「怒らないで。黙っててって言われてたんだから」

「別に怒ってないって」

 美月の情報なら知りたかった。早く結果が知りたくて僕の口調は怒っているように思われてしまった。

「……美月さ、修一君のこと好きだったんだよね」

「は? なんだよそれ」

 そんな話を聞くのはもちろん初めてのことで嬉しさよりも驚きしかなかった。

「相談受けてたんだ。ほら、美月って器用そうに見えて不器用じゃん? 肝心なこと言えないっていうか」

「どうでもいいことはペラペラ喋る癖にな」

「そ。だから修一君のことが好きだけどどうしたらいいのかわからないって。美月から告白、受けたでしょ?」

「ああ、ドッキリかと思った」

「ごめん。あれ、私のアイデアなの。美月がストレートに言うの恥ずかしくて嫌だって言うから、じゃあイタズラっぽくしようって。もし断られてもその方がダメージ少なそうでいいかなって。浅はかだったよね、バカだよ私」

 点と点が繋がった。体の中から感情が堰を切ったようにあふれ出てくる。

「なんでだよ。なんで今更そんなことを言い出すんだよ。美月はもう……いないんだぞ」

 目から涙があふれ出てくる。愛佳は手で顔を覆った。

「ごめんなさい。でもどうしても修一君にはそれを伝えとかなきゃって」

 声が震えていた。愛佳も泣いている。僕は言葉を探すけれど、涙と一緒にあふれ出てしまったように言葉が見つからない。
 僕たちは言葉を交わすことなく、ただお互いが泣き止むまでその場にいることしか出来なくなっていた。


■筆者メッセージ
しかしまああれですな。
うん。あれですわ。あれ。
( 2020/12/27(日) 21:39 )