05
結局お金がなければ何もできないことがわかった。お金が全てではないことは知っていても、なくては何もすることが出来ない。人生においてなくてはならないもの。それを持っていない自分はこのままどう生きていけばいいのだろう。
逃げるように家を飛び出したはいいが、行く当てもなければ宿泊をするお金も持ち合わせていなかった。
全てはあの外道のせいだ――逃げ込んだ先は塾だった。しかし寝泊まりなど出来るはずもなく、追い出されてしまった。
無一文に近い史帆はフラフラと夜の街をさまようことしか出来ないでいた。すれ違う人々。史帆の目にはキラキラと輝いて見えた。
どうして同じ人間なのにこうも違うのだろう。私が何をしてきたというのか。
自問自答を繰り返しては似たような道を歩くだけだった。何時間歩き続けただろう。いい加減座って休みたかった。
本当だったら公園にでも行ってベンチに座りたかった。けれどこんな夜中に女一人で公園のベンチに座っていたら何をされるか。この状況でもまだ冷静な判断は残っていた。
「お姉さん可愛いね。今日は“ひとり”なの?」
髪を茶色く染めた男に話しかけられた。ニキビ跡の残るあどけない顔立ちだが、史帆よりも年上だろう。
男たちに話しかけられるのはこれで何度目だろう。夜の街に女“ひとり”は彼らにとって格好の獲物に見えるのか。
「……私は“独り”よ」
「じゃあ俺っちと一緒に遊ばない? いいとこ知ってるんだ」
「いいよ。でも条件があるの」
「条件? 言ってみてよ」
きっと大半の女性に声をかけては無視されてきたのだろう。男の目がキラキラと輝きに満ちていた。
「人を殺してほしいの。そしたらいくらでも遊んであげる」
「お姉さん冗談を」
「本気よ。ねえ、あなた。どこの人かも知らないけど、殺してくれないかしら。包丁でもバッドでも何でもいいから」
史帆の目は虚ろだった。外見だけしか見ていなかった男はそんな史帆の目を見た瞬間、ばつの悪そうな顔を浮かべた。
「メンヘラかよ」
そう言い残し足早に去って行った男の背中を見つめ、史帆は俯いた。
「なんで生きてるんだろ」
それが博に対してなのか、先ほどの男に対してなのか。はたまた自分自身に対してなのか。史帆にはもう区別がつかなくなっていた。