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「よくない?」
「うん。色んなアプリとかやってるんだけど、どれも最悪な組み合わせだって言われちゃってるんだ」
占いの類を虫唾が走るほど嫌悪している雄二にとって女の言葉はもっとも聞きたくないものだった。
本来は頭のいい女である。雄二がそういった幼稚なものを嫌っていることは知っているはずである。
「俺が占いを信じていないのは知っているだろ」
「そうなんだけど……」
ナーバスにでもなっているのか。情緒不安定なのは若い女に限ったことではないが。
「きっとナーバスになっているんだ。落ち着け。大丈夫さ。俺とお前ならバラ色の未来がきっと待っている」
そう言って女を抱き寄せようとしていた雄二の腕は空を切った。手のひらは柔らかな感触ではなく、女が逃げて生まれた風だけだった。
「そうかもしれないけど、不安なのよ。あなたは二度目かもしれないけど、私にとっては初めての結婚なのよ。ましてや本当に結婚できるのかもわからないのに」
「俺を信用していないのか」
さすがに二度も逃げられ、暗に信用していないと言われているようで雄二にとってはいら立ちを募らせるだけだった。
「そうじゃない。そうじゃないけど……怖いの」
「大丈夫だ。俺がついている」
なるべく優しく。それでいて力強く。雄二は自分が俳優になったつもりで言葉を紡いだ。
「そうだけど……」
けれども女の心は固く閉じたままだった。我ながらいい演技だったと思ったのに。雄二は気分を落ち着かせようと、カバンの中から煙草を取り出そうとした。
チャックを開けると、見慣れないものが入っていた。手に取ってみると、「あっ」と声が出た。女が不思議そうな顔で雄二を見た。
これなら今の状態を上手く脱せるのではないか。煙草でごまかそうとしていた苛立ちがスーッと消えた。
「いいものがある。こいつに俺たちの未来を占ってもらえばいいんだ」
誇らしげにタロットカードを取り出した雄二はベッドにそれを広げて見せた。