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若い頃はそれこそ永遠に性交をすることが出来ると思っていた。何度欲望を出しても枯渇することのなかったのに、今では一度出せばもう十分だった。
年齢をひしひしと感じる瞬間である。体型的には努力をしているほうだとはいえ、中身まではどうしようもないのが歯痒くて仕方なかった。
雄二の腕の中で目を閉じて余韻に浸る女。言葉にこそ出さないが、もっと繋がっていたいと思ってないだろうか。プライドの高い自分に気遣って本音を言えないとしたら、今後の『夫婦関係』に響いてくるのだ。
失敗してしまった結婚生活。そこで得た教訓を生かすことが妻と息子にせめてもの償いといえよう。雄二の中では二人の存在は過去のこととなっている。
わずかな綻びから物事は崩れ去る。崩れてから原因を究明しようとしている輩が多い。原因はもっと深いところにあるというのに。
雄二が鼻を鳴らすと女が目を開けた。瞳が大きく見えるコンタクトでも付けているのか、女の瞳は猫のように黒目が大きく見える。
「どうしたの?」
「いや、バカな人間ばかりだなと思って」
「私のこと?」
女は抗議するような眼差しを向けているのに、口元は笑っていた。猛禽類のような長い爪で雄二の乳首をカリカリと引っ掻いてくる。
痛みはない。愛おしさが募る。愛は蓄積されていくものだと雄二は思った。
「お前のことじゃない。安心してくれ」
抱きしめようとすると、女はするりと逃げた。逃げられるとは思っていなかった雄二は呆気にとられながら女を見た。
「ねぇ、最近私占いにハマってるって言ったじゃない」
突然の言葉に雄二は記憶の糸を手繰り寄せる。ほんの少し前までは手繰り寄せずともすぐに引っ張り出せた記憶が今では手繰り寄せなければなかなか出てきてはくれなかった。
「ああ、そんなようなこと言っていたような気がするな」
時間を稼ぎたいわけではない。なかなか出てきてくれないのだ。
「もう。忘れっぽいわね。最近占いにハマってて私たちの未来、占ってるんだけど」
「私たちの未来、か。いい言葉だな」
お説教臭い電車の中吊り広告より何百倍も心に響いた。
「でね……私たちの相性、あんまりよくないんだって」