11
中身が口の中に入った瞬間、雄二にはそれがテキーラだとすぐにわかった。が、ここで意地を張ってでも水だと言いきれれば、負けたことにはならない。上手く彼らを騙さなくては。
「ふう。今回は当たりでした」
店主である男は安堵の顔を浮かべている。先ほどのリアクションからしても彼がまたテキーラを引いた可能性は低い。
男はどうだ。雄二は口の中に入ったテキーラを勢い良く呑み込んだ。液体がのどを焦がし、胃の中で広がるのを覚える。
男は余裕の笑みを浮かべたままだった。店主と同じく水を引いたか、はたまた雄二のように嘘を貫こうとしているのか。
わからなかった。男の表情からも仕草からも嘘をついているようには見えないのに、嘘をついているようにも見える。
グラスを置くと、男はパチンと指を鳴らした。
「たまにはテキーラを飲んでみたいものです。飲み屋に来てお酒が飲めないなんてつまらないでしょう。ねえ、雄二さん」
同意を求められ、雄二は返事の代わりに鼻を鳴らした。テキーラが腹の中で暴れないことを祈るばかりだ。
「ほんと強運ですよね。羨ましい」
「マスターに少しはわけてあげたいぐらいです。で、どなたが当たりを引いたのでしょう」
「僕でしょう」
「マスターは外れでしょう。雄二さんは、いかがでしょう」
男の目は憎らしいほどに透き通っていた。水のように。
「俺も外れのようだ」
「おお、では三人とも外れだったということですか。こんな日もあるんですね」
水のように清らかなはずなのに、男の目は全てを見透かしているようだった。雄二が嘘をついていることさえ楽しそうだ。
「次が最後だ。さっさとやるぞ」
あの余裕の笑みを消し去ってやりたい。テキーラが腹の中で暴れ始めたのか、体に熱が回りだした。頭がボーっと痺れているのに、殺意という意識だけははっきりと雄二の頭の中には残っていた。