第二章
11
 中身が口の中に入った瞬間、雄二にはそれがテキーラだとすぐにわかった。が、ここで意地を張ってでも水だと言いきれれば、負けたことにはならない。上手く彼らを騙さなくては。

「ふう。今回は当たりでした」

 店主である男は安堵の顔を浮かべている。先ほどのリアクションからしても彼がまたテキーラを引いた可能性は低い。
 男はどうだ。雄二は口の中に入ったテキーラを勢い良く呑み込んだ。液体がのどを焦がし、胃の中で広がるのを覚える。
 男は余裕の笑みを浮かべたままだった。店主と同じく水を引いたか、はたまた雄二のように嘘を貫こうとしているのか。

 わからなかった。男の表情からも仕草からも嘘をついているようには見えないのに、嘘をついているようにも見える。
 グラスを置くと、男はパチンと指を鳴らした。

「たまにはテキーラを飲んでみたいものです。飲み屋に来てお酒が飲めないなんてつまらないでしょう。ねえ、雄二さん」

 同意を求められ、雄二は返事の代わりに鼻を鳴らした。テキーラが腹の中で暴れないことを祈るばかりだ。

「ほんと強運ですよね。羨ましい」

「マスターに少しはわけてあげたいぐらいです。で、どなたが当たりを引いたのでしょう」

「僕でしょう」

「マスターは外れでしょう。雄二さんは、いかがでしょう」

 男の目は憎らしいほどに透き通っていた。水のように。

「俺も外れのようだ」

「おお、では三人とも外れだったということですか。こんな日もあるんですね」

 水のように清らかなはずなのに、男の目は全てを見透かしているようだった。雄二が嘘をついていることさえ楽しそうだ。

「次が最後だ。さっさとやるぞ」

 あの余裕の笑みを消し去ってやりたい。テキーラが腹の中で暴れ始めたのか、体に熱が回りだした。頭がボーっと痺れているのに、殺意という意識だけははっきりと雄二の頭の中には残っていた。


■筆者メッセージ
しばらく壊れていた自転車のカギ。
たまたま自転車屋の近くを通ったのでダメ元でお願いしてみたらすぐに直してくれました。
愛想の悪い自転車屋なんですけど、今日ばかりは神様に見えました(テノヒラクルー)
( 2019/02/14(木) 16:15 )