04
加藤博の死から一週間が経ったというのに、今なおワイドショーはその話題を取り上げ続けている。さすがにニュース番組では大きく報道されることは少なくなっていたが、それでもたびたび取り上げているのを雄二は見た。
今なお原因はわからないでいる。飛び降り自殺なのか、はたまた他殺なのか。雄二にはどうでもいいことだが、早期解決を求める声は相次いでいる。
「まだ雄太は学校へ行かないのか?」
食後、お茶を運んできた恵子に雄二は尋ねた。
「はい」
「引きこもって部屋で何をしているんだ?」
「さあ。勉強、していればいいんですけど……」
こちらも事件同様、まるで解決の糸口が見つからない。雄二は大げさにため息をついた。
「なあ、わかってくれよ。俺の立場ってものがあるだろ? もっととは言わないが、もう少し息子のことをわかってやれよ」
恵子は一瞬何か言いたげな表情を浮かべたが、すぐに俯き小さな声で返事をした。湯呑に入った熱い茶をこぼさないように慎重に口へ運んだ雄二は、その表情を見ることはなかった。
「全く。話にならないことばかりだ」
そう言って立ち上がると、椅子に掛けてある上着を手に取った。
「ちょっと出てくる」
「はい」
雄二が食べ終わった食器類を下げようとする恵子の手は病人のように白くて、血管がボコボコと浮き出ていた。
ザラザラの指先。何も塗られていない爪は輝きを失っている。艶やかに彩られた嬢の手とは同じ女性の手とは思えなかった。
「一か月だ。一か月以内に解決をしなかったら離婚だと思っていい」
なぜ自分はこんな女を選んだのだろう。婚期を焦っていたのかもしれない。雄二は心の中で沸々とした怒りがわいてくるのを感じた。
いきなり離婚話をされた恵子は大きく目を見開いて雄二を見た。が、すぐに目を伏せた。まるで動物が自分よりも強い相手と対峙した時のようだ。
——この女は離婚を持ち出されてもこの反応か。
離婚というのはもっと色々と面倒だと思い込んでいた。だが、どうやらそうではないようだ。雄二は舌打ちすると玄関へと向かった。
いつもなら玄関まで見送る恵子がこの日ばかりは着いてこなかった。