02
行きつけのキャバクラへ着くとすぐにボーイが席へ案内した。が、肝心の嬢がほかのテーブルの接客中だという。
常連客だから融通しろと言いたかったが、仕方がないと言い聞かせた。代わりにテーブルへ着いた嬢はいかにもケバケバしい化粧をしていてとても頭の悪そうな女に見えた。
「今日はお仕事終わりですかぁ?」
赤く塗られた長いネイルは犬や猫を引っ掻いて浴びた鮮血のように見えてならなかった。
「この格好を見ればわかるだろ」
ブスっとしながら雄二が答えると、嬢は一瞬表情を強張らせた。
「なんのお仕事をされてるんですか?」
厳格な教師を前にした生徒のようだ。語尾がだらしなく伸びた嬢の口調が変わった。
「公務員だ」
「すごーい!」
本人は感情をこめて言ったつもりだろうが、雄二には棒読みにしか聞こえなかった。だがそれでいい。こんな頭の悪い女から徴収する税金を巻き上げてキャバクラへ通うなんて最高じゃないか。
「君はいくつだ」
「二十四」
その割には子供のようだ。雄二は自分が二十四歳だった頃を思い出す。大学を卒業してすぐに地元の市役所へ勤めた。三年目となり仕事量は格段に増えていて毎日のように残業していた。
ちょうどその一年後に恵子と出会う。知人の紹介だった。二十七歳で結婚。その一年後には待望の息子が生まれた。
全てが順調だった。本当だったら省庁へ勤める予定だったが、あと一歩が届かなかった。それ以外のことは概ね雄二が思い描く未来の軌道に乗っている。
だが、その待望の一人息子である雄太が引きこもりになってしまった。学校でイジメを受けたのかどうか知らないが、泣き言は言わせないつもりだった。
何としても雄太を学校へ戻さなくては。中学生とはいえど、もうある程度の物事の区別はつくはずだ。父親の顔に泥を塗る真似だけはしてはいけない。
「ごめんなさい。ちょっと混んでいて」
煙草を吸いながら腕を組んでいると、ようやく目的の女が現れた。さっきまでいた女はどこかへと行ってしまった。
「遅いぞ、全く」
もしも願いが叶うとしたら――そんな質問自体くだらないと思いながらも、雄二はこの質問の返答をすでに決めている。
「俺の思った通りに物事が進みますように」