07
携帯電話が着信を告げるのは久しぶりのことだった。コンビニのアルバイトをしていた頃、寝坊をしては電話で起こされていたが、解雇されてからというもの全く鳴らなくなっていた。
睡眠を邪魔され文句を言おうとした博の手が携帯電話に触れる前に着信は止まった。それからすぐにメッセージが送られてきた。
<博君天才じゃない>
<なにあれ>
<当たりすぎて震えが止まんない>
ディスプレイに次々映し出される文字を見ながら博は首を傾げた。メッセージの主はどうやら女のようだが、内容とともに誰か思い出せずにいた。
<今夜時間ある?>
<お店に来てなんて言わないから安心して>
<ちょっと博君と話がしたいなって>
怒涛のようなメッセージにスパムを疑ったが、ピンと頭の中で繋がるものがあった。
あの女か。博は数日前に行ったキャバクラを思い出した。たしかそこで会った女の未来を占ったはずだ。博はあの日結局朝まで飲んで記憶をなくしていた。
適当に占ったあの女に俺はなんと言ったのか。占ったことは思い出せても内容までは思い出せなかった。
<いいよ>
<ただし今俺金ないからそっちのおごりな>
それでもこの女の興奮具合が文脈からでも伝わってくる。俺はどうやら未来を当てたようだ。
咎められないと知ると、博は承諾の旨を伝えた。
返事はすぐに来た。相手は何が何でも会いたいようだ。時間は女に合わせることにした。
久しぶりにセックスができるかもしれない。金を必要としないセックスは久しぶりのことだ。女を抱くことを想像すると、股間がゆっくりと膨張を始めた。
けれどもどんなに想像しても女の顔を思い出すことはできなかった。