04
半信半疑というよりも、ほとんど信じていなかった。タロット占いの存在は知っているが、たかだかカードである。そんなもので未来なんて占えるはずがない。
博は占いを信じてはいなかったが、自分にとって都合のいい内容ならば信じた。たとえば朝の番組でやっている占いのコーナー。星座占いで自分の生まれた星座が上位に入るとその日はなんだかいいことが起きそうな気がして、足取りも軽くパチンコ屋へ行く日もあった。
単純な人間だとは思うけれど、他の人間たちだって大なり小なり自分と似たようなものだろう。ベッドに大の字になって天井を見つめていると、尻ポケットに入った財布を取り出した。
財布の中は千円札が一枚と多少の小銭しか入っていない。辞めたコンビニの給料日までまだ十日以上残っている。
貯金もなかった。夜通し金を持たない主義といえば聞こえはいいかもしれないが、あるだけ使ってしまうタイプの人間だった。
実家暮らしだからお金は好きに使えた。だが、そろそろ雲行きが怪しくなってきてはいることに博は勘付いている。
というのも、博の妹である史帆が間もなく大学受験を控えているのだ。しかも一人暮らしを希望している。ニートである博に両親はもはや愛想を尽かし、妹である史帆のことを溺愛しているのだから、間違いなく彼女の希望を叶えるだろう。
そうなると、だ。自分は完全にお荷物となる。ただ無駄に金のかかる存在に両親はメスを入れてくるはずだ。事実、最近では正規雇用として働かないと家を追い出すと遠回しに言ってくるようになっていた。
女なんだから大学なんて行かなければいいのに――兄である自分のことを反面教師にしているのか、史帆は要領のいい女だった。黙っていればまあ、それなりに容姿は整っているから昔から人気もあった。
博はそんな史帆の下着を盗んでは同級生やインターネットで売りつけては遊ぶ金を手にしてきた。しかし数年前についに家族にそれが見つかり、今ではすっかり隔離された洗濯機置き場と史帆の部屋には鍵が施錠された。
いい小遣い稼ぎを失った博の収入源はアルバイトで稼いだ金だけとなり、今はそれが尽きようとしている。何度か侵入を試みた洗濯機置き場と史帆の部屋にもう一度侵入を試みようか。
そう思った矢先、階段を上がる音が聞こえた。どうやら塾から史帆が帰って来たようだ。受験を控える史帆の帰宅が日に日に遅くなっていることは知っている。本来無職の兄の立場なら夜遅く帰ってくる妹の迎えをしてやるのが道理なのだろうが、あいにく博にそんな優しさはない。
ちょっと相談でもしてみるか――金欠にあえぐ兄を助けてやるのが家族というものだろう。博は体を起こすと、部屋から出た。