01
ボックスの中にある煙草が残り一本だと気付いた加藤博は舌打ちをした。さっき買ったばかりじゃないか。
最後の一本を取り出すと、空になったボックスを片手で潰した。百円ライターで口に咥えたマイルドセブンに火を点けた。
そうすると今朝の出来事が思い出された。今朝はコンビニのアルバイトが朝の8時からだったが、寝坊してしまった。
コンビニのアルバイトを始めてからもう何十回も遅刻をしていた。夕方にアルバイトを終えてその足で近所のパチンコ屋まで赴き閉店まで時間を潰す。それが日課だった。
帰宅してから酒を飲み、スマホゲームをしているとああという間に深夜の二時や三時を回っていてそこから寝るとどうしても朝が起きられなかった。
生活リズムを変えるつもりはなかった。俺に合わせないコンビニのシフトが悪いと思っていた。
解雇を言い渡されたのは、その日の昼過ぎだった。店長にバックヤードへ呼ばれ、着いて行くと開口一番解雇を言い渡された。
理由としては何十回も遅刻していることに加え、レジから現金を盗んでいる疑いをかけられた。事実、博は何回か金に困ってレジから札を抜き取ったことがあった。
別に首になってもよかった。好きで働いているわけではない。親がうるさいから仕方がなしに働いているだけ。
博は無言で制服を脱ぐと、店長に向かって投げつけた。近くにあったパイプ椅子を蹴飛ばすと、コンビニをあとにし通い慣れたパチンコ屋へ向かった。
どうせ潰れることのないチェーン店なのだから、札の一枚や二枚いいじゃないか――胸糞の悪い出来事なんてさっさと忘れたいはずなのに、あれから数時間が経った今でもついさっきのことのように思い出してしまう。
博が打つ台の絵柄が二枚揃った。あと一枚揃えば大当たりだ。博は煙草をもみ消した。そろそろ財布の中の資金源がなくなってきた頃だ。これで当たればまだ数時間は遊べる。
が、そんな博の期待とは裏腹に絵柄はまるで違うものが出てきてしまった。思わず台を殴った。
「お客様、台は叩かないようお願いします」
たまたま博の背後を通りかかった店員に注意をされ、博の背後を睨みつけた。
「うるせえ! お前が通るから外れちまったじゃねえか! 消えろ!」
博の勢いに気圧されたのか、店員は頭を下げそそくさとその場を後にした。博はそんな店員の背中が惨めに見えた。どうせ学生時代いじめられっ子だったのだろう。
台に向き直すと煙草を取り出そうとした。が、さっきの一本で切らしてしまった。
舌打ちする博に横からタバコが差し出された。