第7章「いけない子」
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 なかなか本題である相談ごとにたどり着かない。世間話という名の一方的な彼女のマシンガントークに、次第に私のまぶたが重たくなり始めてきた。
 先ほどトイレへ行くがてらに見た時計では、間もなく日付が変わりそうだった。明日は早朝よりバスへ乗って東京へ戻らなくてはならないのに。
 別に私が運転をするわけではないから、バスの中で睡眠不足を解消すればいいわけだが、果たしてバスの中で熟睡が出来るか。隣にまた優佳ちゃんが座った日にはどうされたものか、分かったものじゃない。

「眠たいですか?」

 カクッと意識が途切れた。まぶたの重みは耐え難いものになっていた。

「うん。そう、ね。で、相談ごとってなにかしら」

「ベッドの中で話しましょう。万が一寝てもそれなら平気ですから」

 私が寝るはずのベッドなのに、誘導され横になるとちゃっかり彼女も隣へと寝転んだ。ホテルのシングルベッドに二人で寝るといくら女性同士でもさすがに狭い。

「菅井さんは暗くても寝られる人間ですか?」

「さすがにそこまで怖がりじゃないよ」

 部屋の照明が暗くなる。唯一の灯りは枕元の間接照明だけとなった。

「まあ、大した悩みではないんですけど」

 その大した悩みを聞くのに何時間が経っているのか。そう言いかけたが、口までまぶたのように重たくなっていて開くのが困難だった。

「ほら、私たちって恋愛禁止じゃないですか」

「ほうね」

 自分では「そうね」と言ったつもりだが、呂律が回らなかった。クスッと笑った彼女の息が吹きかかる。

「相当眠いんですね。で、なんていいますか。その、欲求不満というんですかね」

「うん」

「それが上手く解消出来ていないなって。ほら、ストレスにしろ欲求にしろ我慢し続けるのって辛いし、第一体に毒じゃないですか」

 何が言いたいのか、分かるような分からないような、ふわふわとした感覚だった。夢と現実の狭間で身体が宙に浮いているようだ。

「で、ですよ。欲求を解消しようと色々試したわけです。買い物をしたり、お菓子をたくさん食べたり。でも、どれも効果がないわけじゃないんですけど、薄いっていうか一過性に過ぎないんですよね。買い物にしても、無駄な出費がかさむだけですし、お菓子に至っては太ったり肌荒れの原因にもなりましたし」

「大変ね」

 眠気との戦いで他人事のような言葉しか出てこなかった私の股間に何かが当たった気がした。

「そう。大変なんですよ。で、どうすればいいのかなって。色んな人に相談したいけど、人脈が広いわけではないですし、まだ漢字の方とそこまで面識があるわけでもなくて、結局相談できたとしてもひらがなのごく一部のメンバーなわけですよ」

 隣にいるはずの彼女の声が遠く聞こえるようになってきた。まぶたの重みに耐えられない。
 また股間に何かが当たったような気がするが、私の意識はもはや限界だった。

( 2018/04/25(水) 19:10 )