第7章「いけない子」
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 最近の私は変態じみていると思う。男性器が生えてからというもの、何事にもそのせいにしている節が見受けられる。
 私はキャプテンであるという以前に、アイドルなのだ。アイドルが変態じみた行動をしていいわけがない。

「私、心を入れ換えるよ」

「なにが?」

 控え室では目の前に座るぺーちゃんが欠伸をかみ殺している。今日も可愛くて、つい動画を撮ってしまいたい欲求に駆られるが、普通の生活に戻るのだ。我慢しなくては。

「こっちの話。うん。私は心を入れ換える」

 呪文のように自分に言い聞かせると、本当に入れ換えられそうだ。

「菅井さんのそれって、催眠術みたいですね。私最近かかっちゃったから、分かるんですよ」

 横から影山優佳ちゃんの声が聞こえた。今日はこれからひらがなの子とも共演する予定だ。

「あれって見ているだけでかかっちゃうものなの? それとも演技?」

 ぺーちゃんが気になっているのか、目をキラキラさせた。
 つい先日の収録で、優佳ちゃんは催眠術にかかってしまったという。しかもかけられる予定ではなかったのに、ひな壇で見ているだけでかかってしまったらしい。

「普通はかからないみたいですけどね。私が純粋すぎるらしくて」

「まあ、そんな感じがするわ」

 純粋でドMで。この秘密を知っているのは私だけだと思うと、いけない気持ちになってしまう。

「私も見てたらかかっちゃうタイプかな?」

「うーん。梨加さんもそうかもしれないですね」

 もしぺーちゃんが催眠術にかかったらどうしよう。やはりエッチなことをしてしまうのだろうか。
 その考えが頭をよぎり、慌てて振り払った。私はまともになるのだ。元の真面目人間に戻るのだ。そんなアダルトビデオのような妄想はしない。

「もし梨加さんがかかるとしたら、どんな催眠術にかかりたいですか?」

「どんな催眠術? うーん。難しいなぁ。空を飛んでみたり?」

 空を飛ぶ催眠術なんて聞いたことがない。私は思わず笑ってしまった。

「そんな催眠術があったら私もかかってみたいわよ」

 平和だ。まったりとした時間が心地いい。願わくはこの時間がずっと続けばいいのに。
 まるで嵐の前の静けさのようで、私は先が不安に感じた。このまま安直に物事が進むとは考えづらい。収録でトラブルがなければいいが。

「ちょっとトイレに行って来るね」

 ふいに尿意を覚え、私は席を立った。ぺーちゃんは「しばらく寝る」と言って机の顔を伏せた。
 優佳ちゃんはひらがなの子たちの輪の中へ入っていった。私はトイレへと向かうことにした。

( 2018/04/25(水) 19:07 )