01
最近の私は変態じみていると思う。男性器が生えてからというもの、何事にもそのせいにしている節が見受けられる。
私はキャプテンであるという以前に、アイドルなのだ。アイドルが変態じみた行動をしていいわけがない。
「私、心を入れ換えるよ」
「なにが?」
控え室では目の前に座るぺーちゃんが欠伸をかみ殺している。今日も可愛くて、つい動画を撮ってしまいたい欲求に駆られるが、普通の生活に戻るのだ。我慢しなくては。
「こっちの話。うん。私は心を入れ換える」
呪文のように自分に言い聞かせると、本当に入れ換えられそうだ。
「菅井さんのそれって、催眠術みたいですね。私最近かかっちゃったから、分かるんですよ」
横から影山優佳ちゃんの声が聞こえた。今日はこれからひらがなの子とも共演する予定だ。
「あれって見ているだけでかかっちゃうものなの? それとも演技?」
ぺーちゃんが気になっているのか、目をキラキラさせた。
つい先日の収録で、優佳ちゃんは催眠術にかかってしまったという。しかもかけられる予定ではなかったのに、ひな壇で見ているだけでかかってしまったらしい。
「普通はかからないみたいですけどね。私が純粋すぎるらしくて」
「まあ、そんな感じがするわ」
純粋でドMで。この秘密を知っているのは私だけだと思うと、いけない気持ちになってしまう。
「私も見てたらかかっちゃうタイプかな?」
「うーん。梨加さんもそうかもしれないですね」
もしぺーちゃんが催眠術にかかったらどうしよう。やはりエッチなことをしてしまうのだろうか。
その考えが頭をよぎり、慌てて振り払った。私はまともになるのだ。元の真面目人間に戻るのだ。そんなアダルトビデオのような妄想はしない。
「もし梨加さんがかかるとしたら、どんな催眠術にかかりたいですか?」
「どんな催眠術? うーん。難しいなぁ。空を飛んでみたり?」
空を飛ぶ催眠術なんて聞いたことがない。私は思わず笑ってしまった。
「そんな催眠術があったら私もかかってみたいわよ」
平和だ。まったりとした時間が心地いい。願わくはこの時間がずっと続けばいいのに。
まるで嵐の前の静けさのようで、私は先が不安に感じた。このまま安直に物事が進むとは考えづらい。収録でトラブルがなければいいが。
「ちょっとトイレに行って来るね」
ふいに尿意を覚え、私は席を立った。ぺーちゃんは「しばらく寝る」と言って机の顔を伏せた。
優佳ちゃんはひらがなの子たちの輪の中へ入っていった。私はトイレへと向かうことにした。