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シャワーから上ると、ふいに緊張してきた。まるでこれではセックスをする流れではないか。
愛佳を自宅へと誘い出し、そこで購入したビデオを見ようという流れになった。あれから愛佳は大人しい。本当に見るのか訝しんでいるようにも見える。
リビングへと戻ると、愛佳はソファに座ってぬいぐるみをギュッと抱いていた。馬のぬいぐるみが形を変えるほど力強く抱いている。
どうやら緊張しているのは私だけではないようだ。そう思うとずいぶんと気持ちが楽になり、周囲がよく見えるようになった。
「なに拾ってきた猫みたいになってるのよ」
まだ乾ききっていない愛佳の髪は蛍光灯の灯りを反射しているかのようにサラサラとしている。
「だってさぁ。ほんとに見る気?」
顔だけ上げて唇を突き出す仕草にドキリとした。
「本気と書いてマジと読む」
念入りに男性器は洗った。これで万が一のことがあっても、大丈夫のはずだ。
私は期待していた。これからの流れを。まるで彼女を連れ込んだ男性のようだと自嘲しながら、愛佳のバッグからビデオを取り出した。
「変態だよ、マジで」
何を言われようが平気だった。今はビデオのことだけで頭がいっぱいだ。無料動画はたくさん見ても、こうして購入して見るのは初めてのことだ。
その場から動く気のない愛佳を横目に、私はビデオをセットした。読み込みの間に、電気を消した。
「やだ。明かりは点けてよ」
そういえば、愛佳はホラー系がダメだった。怖がり屋の愛佳だから、もしかしたらいつも電気を点けたまま寝ているのかもしてない。
「臨場感よ、臨場感」
「そんなのいらないし。今日のゆっかー、ドSだよ」
果たして私はサディスティックなのか、マゾなのか。考えている間に再生が始まった。
「バカみたい」
見る気のない愛佳はぬいぐるみに顔を埋めていた。私はわざとボリュームを上げた。
自己紹介から始まったビデオは、次第に女性が洋服を脱ぎ始めた。パッケージと顔がずいぶんと違うように見えるが、羨ましいほどスタイルがよかった。
「見て。この人すごくスタイルがいいよ」
自然と鼻息が荒くなっていた。
「見ないよ。てか、この人パッケージと顔違いすぎだし。パッケージ詐欺ってやつでしょ」
見ないと言っておきながら、しっかりと見ているじゃないか。私は笑いそうになりながら同意した。
画面に映る女性が下着を脱ぎ終えると、画面の外からパンツ一丁の男性が現れた。男性は筋肉質でボディビルダーを彷彿とさせた。
「マッチョか」
背後からそんな声が聞こえて私が振り向くと、声の主は慌ててぬいぐるみに顔を埋めた。