第6章「Sなの? Mなの?」
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「どうしても行かなきゃダメ?」

 今にも泣き出しそうな目に良心が痛めつけられたが、私は心を鬼にして頷いた。

「鬼畜ぅー」

 カーテンを入りそうで入らない愛佳。

「早くしないと誰か来ちゃうよ」

 幸いにも人通りがなかった。このタイミングを逸してしまえば、いつ入れるか分かったものじゃない。

「中に誰もいないよね?」

「さあ。中は入ってないから分からない」

「うー。なんかゆっかー男の人みたい」

 そりゃあ男性器が生えていますから。半分男みたいなものですよ。
 先ほどとは違ったドキドキ感が芽生えている。可愛い女の子が困っているのを見て、興奮を覚えているようだ。

「ほら早く」

 急かすと、愛佳は逡巡しながらも勢いよくカーテンの奥へと突っ込んだ。が、すぐに戻って来た。

「人がいた!」

「そりゃあいるでしょ。そんなんじゃいつまで経っても買えないわよ」

 唇を突き出す愛佳の頬はすでに真っ赤だ。

「私が恥ずかしさで死んだら恨んでやる」

 羞恥心で死んだ人間など聞いたことがない。私が苦笑いを浮かべると、愛佳は先ほどと同じように勢いよく入っていた。
 商品を選んでいた男の人からしたら驚き以外の何物でもないだろうな。いきなり若い女の子が勢いよく入ってきて、商品を手に取るのだから。
 私がもし男の人の立場だったらどう思うのだろう。そう考えていると、パッと愛佳が戻って来た。

「早いね」

 時間にすれば数十秒、いや数秒ぐらいだ。

「これでいいんでしょ」

 まるで私が持って来いと命じたように、愛佳が商品を手渡してきた。
 パッケージを見ると笑顔の女性が豊満な胸で男性器を挟んでいた。いわゆる巨乳フェチに向けた作品だ。

「へえ。愛佳はこういうのが好きなのか」

「違うって。近くにあったからパッと取って来ただけ」

 時間からするにそうだろうな。そう思いながらパッケージを見ると、違和感を覚えた。

「あれ? でもこれってレンタルじゃない? ほら、新作ってあるよ」

 パッケージには緑色のテープが貼られていた。その上には新作と書かれている。

「ほんとだ。てか、この女の人胸デカ過ぎない? 絶対造り物だって」

 パッケージを見る愛佳の目は好奇に満ちているようだった。

「造り物だっても男の人は興奮するんでしょ」

 裏面を見ると、シーン毎のキャプチャーと共に見所が書かれていた。こういったところは普通のビデオと変わりはないようだ。

「なんか達観してるね。見慣れているっていうか。ゆっかー本当はこういうのよく借りてるんじゃないの?」

 さすがに動じなさ過ぎたようだ。いくら無料動画で見慣れているとはいえ、ここはもっと恥じらいを持つべきだった。

「まさか」

「いや、本当に。絶対男だよね?」

「冗談はそれぐらいにしなさい。ほら、やり直し」

「だったらさ、ゆっかーも一緒に入ってよ。見慣れているみたいだし、ゆっかーが選んで。買うのは私が買うから。ほら、約束は守っているでしょ」

( 2018/04/25(水) 19:03 )