07
お互い裸のまま無言の時間が続いた。シャワーを止めていないから、お湯だけが流れている。止めなくてはいけないと思いつつ、目を離したら彼女が逃げてしまいそうでこの場から離れることが出来ない。
泣いているのか。シャワーの音に交じってシクシクと泣く声が聞こえる。顔を伏せているから分からないけど、泣きたいのはこっちの方だ。いきなり浴室へ入ってきて、私に男性器が付いていると分かった途端逃げ出して。
どう声をかけたらいいのか分からないまま、時間だけが過ぎていく。一体どうすればいいのだろう。怒りにも似た悲しみで私の頭は何も考えられなくなっていた。
「気持ち悪い」
「は?」
ようやく口を開いて出た言葉が気持ち悪いだと? ふざけるな。私だって好きで男性器を生やしているわけではないのに。
「あっ、菅井さんじゃなくて泡のことです。洗い流してないから」
なんだ、泡か。そういえば私の背中にも洗い流しきれていない泡が付いている。そう言われるとむず痒さというか、気持ち悪さが芽生えてきた。
「とりあえずシャワー浴びようよ。話はそれから」
「はい。でも、襲わないでください」
「襲わないって」
人をなんだと思っているのだ。先に優佳ちゃんを通してやろうとすると、彼女は泡まみれの尻を手で隠しながら小走りで浴槽へと向かった。
男性器が生えていると分かった途端、この対応か。仕方がないとはいえ、あれだけ懐いてくれていた子にこんな態度を取られるのは辛いものである。
「いつから、それ生えたんですか」
「数週間、いや一ヶ月は経ったのかな」
身体の一部と化してしまったそれを見つめると、すっかりと小さくなっていた。優佳ちゃんは絶対に見ようとしなかったが。
シャワーを浴び終えると、バスタオルで身体を拭いた。優佳ちゃんが無言で背中を拭いてくれた時には優しさで涙が出そうになった。人は悲しみよりも優しさで涙する。そちらの方がなんて素敵なことだろう。
相変わらず股間にだけは目を向けてくれないが、それでもよかった。あとは何とか事情を説明すれば許してくれるだろう。
果たして私が何の罪を負っているのかよく分からないが。私だって被害者であることに変わりはないはずなのに。
「ごめんね。変なもの見せて」
しかし私は大人だ。時として我慢をしなくてはならない時がある。ピエロになりきる必要があるのだ。短い芸能生活だが、この業界は特にそれが必要なのだと私は身を持って知るようになった。
「ビックリしました」
「そりゃあ、ね。でもドッキリじゃないよ」
ようやくその一言で優佳ちゃんがクスリと笑った。
「もう。業界に染まりすぎですって」
フッと場が軽くなるのを感じると同時に、違和感を覚えた。股間の位置がどうも悪いのだ。最近ではそれを『チンポジ』と知るようになっていた。
私は自前のパジャマのシャツをズボンの中に入れながらこっそりと男性器のポジションを移動させた。