04
シャワーを浴びるとようやく一日が終わるような気がする。
お菓子を食べながらの談笑を一時中断して、私は浴室へ向かった。もちろん、優佳ちゃんは私に先を譲った。
「ほんと真面目な子ねぇ」
シャンプーを手に取ると、ガチャリと音が聞こえた気がした。優佳ちゃんが部屋を出たのだろうか。それとも聞き間違いか。私は意に介すことなく、シャンプーを泡立てた。
「湯加減はいかかでしょうかー」
「シャワーだけだから」
どうやらこのホテルの壁は他よりもかなり薄いようだ。部屋から発せられた声が浴槽までクリアに聞こえるなんて。
ましてシャワーを出しながらだ。大所帯とはいえ、もう少しいいホテルに泊まりたいものだ。
「疲れた時にはお風呂ですよ」
「そうよね。時間があったら後で溜めようかな」
適当に返答すると、おやっと思った。いくら何でも声がクリアすぎないか。これではまるで隣にいるようじゃないか。
私は濡れた髪をかきあげると、カーテンの先に人影が見えた。
「え? 優佳ちゃんそこにいるの?」
「はい。一緒に入りたくて」
洋服を脱いでいるのがカーテン越しから分かった。
「ええ! 一緒に! 無理よ、無理。絶対ダメ」
下を向けばちょこんと“奴”がいる。都合よく消えてくれるでもなく。
「いいじゃないですか。女同士なんだし。裸の付き合いっていうでしょ」
だから私は半分男なんだよ!
「ダメ! 今日はダメ!」
「何でですか」
カーテンを開けてこようとして、私は慌てて閉めた。
「あの日だから! もう血がドバっと出ちゃうから」
「別に気にしませんって。女なんだからよくある話ですし」
女で男性器が付いているはずがないだろ!
「いやいや、もうサスペンスなみに出ちゃってるから」
「それ救急車呼んだ方がいいんじゃないですか。ちょっと見せてください」
「あーダメ、ダメだから!」
必死にカーテンを死守する。これが私の最後の砦なのだ。
「何でですか。そんなに菅井さんは私とお風呂に入るのが嫌なんですか。私、なんか嫌われるようなことしちゃったんですか。教えてください。私に非があるのならいくらでも謝りますから」
声のトーンがいかにも泣きそうだ。私の良心がグラっと揺らめいた。
しかしここで巻けるわけにはいかない。この薄いカーテンだけはなんとしてでも死守しなくては。
「違うの! 優佳ちゃんは悪くない。悪くなくて、宗教的、そう、宗教的な意味で無理なの」
その時だった。ビリッと布が破れる音がしたのは。引っ張りすぎたせいだ。
カーテンが床へと落ちていくのがスローモーションだった。