03
部屋の中に入るなり、優佳ちゃんはどっちのベッドがいいか訊いてきた。壁際かそうでないかの違いだけである。
「どっちでもいいよ。好きな方選んで」
「いやいや。菅井さんが先に選んでください」
このままではダチョウ倶楽部のようなことが起きることは間違いなかった。ただ、一人足りないから譲り合うだけのままに終わってしまう。
「じゃあ、こっちで」
私は近くのベッドを指差すと、荷物をそこへ置いた。
「お菓子食べましょうよ。どれから食べます? それとも全部空けちゃいます? でもこの時間から食べたら太っちゃいますよね」
壁際のベッドには何個もお菓子が並んだ。こういう点ではまだまだ子供だなと思う。
「あとはニキビとか。優佳ちゃん若いからすぐに出来ちゃうぞ」
「えー。それは困ります。でも食べたいし」
「食べればいいわよ。スキンケアちゃんとしてればそう簡単には出来ないはずだから」
「菅井さんも」
何個かのお菓子を手に取ると、優佳ちゃんは私のベッドへ置いた。一緒に食べてといわんばかりの眼差しに、私はベッドへと腰掛けた。
「失礼します。で、どれから食べます?」
ちょこんと座った優佳ちゃんがすでにチョコレートを手に取っている。どうやら本人の中では決まっているようである。
「じゃあ、その優佳ちゃんの手に持ってるやつかな」
「あ、やっぱりそうですよね。疲れた時にはチョコレート食べたくなっちゃいますもんね」
無邪気な笑顔を見ていると癒された。なるほど。握手会に来るファンの方も気持ちが分かった気がする。
箱が開かれると、包みに入ったチョコレートを渡された。お礼を言って包装紙から取り出すと口の中へ入れた。
「んー。やっぱり疲れた後にはチョコレートですよね。疲れが吹き飛んじゃいます」
疲れよりも悩みが吹き飛んでしまうことを願う私は、心が穢れきってしまっているのだろうか。
「そうよね。というか、優佳ちゃんでも疲れるんだ」
「疲れますよ、やっぱり。足とかパンパン」
ベッドの上へ足を乗せると、スカートが捲れて太ももが露わとなった。余分なものが一切ない綺麗な足だ。
「パンツ見えちゃうわよ」
「下にスパッツ穿いていますし、女同士だから平気ですよ」
それが半分男みたいな奴とあなたは同室を選んだんですよ。そう言ったらこの真面目ちゃんはどう思うだろう。冗談だと笑うだろうか。それとも深刻な顔をして「本当ですか」と尋ねるだろうか。
「ん? なに笑ってるんですか?」
「いやいや。いい太ももだなって」
若いだけあってハリも潤いも十二分である。触ったらさぞかしスベスベしているだろう。
「今の台詞おじさん臭いですよー」
ケラケラ笑う優佳ちゃん。足をバタバタさせるとスカートがどんどん捲れて、太ももの面積が大きくなっていく。
とはいえ、フェラチオを経験したことが大きかった。こんな程度の刺激ではまだ“奴”は目を覚まさないでいる。
願わくはそのままずっと眠り続けていてくれ。チョコレートを食べながら私は祈るような気持ちだった。