02
握手会が終わるとホッとすると同時に、疲労感がドッと押し寄せてくる。人と話すのは疲れるものだ。まして初対面であり、立ちっ放しで足も痛い。いくらファンの方とはいえ、こう毎週このイベントがあるのは大変である。
それは他のメンバーも同じで、あちこちから疲れただのマッサージを求める声が聞こえる。
「お疲れ様でした」
パイプ椅子に腰掛けふくらはぎを叩いていると、声をかけられた。視線を上げると、影山優佳ちゃんだった。
「お疲れ様」
「マッサージ、しましょうか」
「いいわよ。優佳ちゃんも疲れているでしょ」
「全然。私なんてまだまだ人が少ないですし。ちょっと失礼しますね」
優佳ちゃんはそう言うとしゃがみ込んで私の手をどかすと、マッサージを始めた。
「別にいいのに」
これじゃあ私がマッサージをさせてるみたいで印象が悪い。だからこそ断わっているのに、この真面目ちゃんは一度決めたら全力でそれをやり遂げようとするのだ。
この子がもっと人気が出て、毎回全力で挑んでいたら壊れてしまうだろう。手を抜くといえば聞こえは悪いが、力の入れ具合は教えるべきである。彼女が素直に聞くかどうかだが。
「ん。もういいわよ。ありがとう。だいぶ楽になったわ」
「またホテルでやりますね」
「へ? 一緒だったっけ?」
確か今日の相部屋は土生ちゃんのはずである。秘密がバレていないとはいえ、気心知れた仲だから楽だと思っていたのに。
「私の相部屋の子が風邪をひいてて、土生さんも風邪気味らしくて代わってもらったんです。風邪ひき同士、移らないだろうって思って」
そういえば、土生ちゃんは朝からマスクをいていて途中体調が悪いとかで休んでいたのを思い出した。
「でも私と同じ部屋でいいの?」
「はい。菅井さんにはまだ聞きたいことがあって」
私は頼られるタイプではなく、どちらかといえば頼ってしまう人間だ。キャプテンとしてそこの部分をもっとしっかりしなくてはと思いつつ、勝手に年齢で選ばれたのはみんな周知の上だからさほど期待もしてくれていないというのに。
「えっと、私なんかよりアドバイスが出来る子いると思うよ。守屋とか」
優佳ちゃんは口角を上げたまま、かぶりを振った。
「菅井さんじゃなきゃダメなんです。お願いします」
キラキラとした目が眩しくて、私はただ頷くことしか出来なかった。
こんないたいけな子の前で勃起なんてしませんように。私はそう願った。