第3章「童貞ペンギン」
03
 沈黙が重く感じた。罪を突きつけられたような重苦しさに胸どころか、身体ごと破裂してしまいそうだ。
 どう言い訳をする? 思考をいくら巡らせようが、無駄であるのは明白だった。彼女は私の異物を見ている。言い逃れなど出来ない状況だ。
 ならばパワープレイで乗り切るしかないか。はたまた泣き寝入りをすれば何とかなるか。

「なぁ、ゆっかー。ゆっかーって男の子なん? それとも女の子?」

 重苦しい雰囲気に似つかわしくないアニメ声が可笑しかった。生まれ持った性質なのだから仕方がないが、何もこんな時にそんな声をされても。

「わ、私は女の子だよ。“コレ”はつい最近急に生えてきて……お願い。信じられないかもしれないけど、信じて」

 一番信じられないのが私自身である。未だに“コレ”と共同生活を送っているなんて。大人になって、アイドルになったかと思えば男性器が生える。こんな未来、誰が想像出来るだろうか。

「……うん。信じる」

「あ、ありがとう」

 なぜ本人が信じられないのに、相手が信じるというのだろう。私の人徳なのか、はたまた彼女が純真極まりなく素直なのか。

「なぁ、見せてくれへん? 信じるから」

「へ? 見せる? え、“コレ”見たいの?」

 さすがにこの状況下で大人しくなった“奴”を指差す。指された奴はピクンと無理やり押さえ込んだ下着の中で跳ねた。

「うん。さっきは驚いてよく見れへんかったし。お願い。誰にも言わへんから」

 両手を合わせて懇願されてしまった。これでは立場が逆ではないか。
 しかし、恥ずかしさはあるがこれはある意味でいえば願ったり叶ったりではないか。相手が見せてくれれば誰にも言わないというのだ。小池美波という人間性を考えた時、秘密を漏らすような口の軽さはしていないように思える。

「わ、分かったわよ。でも見るだけだからね」

 ただでさえ同性とはいえ、性器を見せることは私の中でトップクラスに羞恥なことなのに、まさか男性器を見せることになるとは。
 だが、と私は考える。“コレ”はあくまで勝手に生えてきたものである。私のものではない。いわゆる無理やり送りつけられてきたものだと考えるのが妥当だろう。
 そう考えると、羞恥心は潮のように引くのが分かった。これなら大丈夫だ。あくまで借り物を見せるだけなのだから。

「わぁお」

 躊躇っていては余計に恥ずかしさを生むだけだ。私は一つ息を吐くと、一気に脱いだ。恨めしい“奴”がプルンと跳ねながら姿を現すと、美波ちゃんは外国人みたいに感嘆の声を上げた。

「あれ? でもさっきと形状が違うような」

 朝立ちを理解していないのか、好奇の眼差しがまた押さえ込んだはずの羞恥心を湧き上がらせてくる。
 勃起するなよ、と私は“奴”に言い聞かせる。

( 2018/04/25(水) 18:46 )