第2章「私、見ちゃったんです」
01
 男性器の存在がもはや当たり前のようになってきたというか、“最初から”生えてきたような感覚に変わっている。
 生え始めた当初はいくら自分の身体から生えてきたものとはいえ、恥ずかしくてまともに見れなかったものの、最近ではお風呂場でもトイレでも身体の一部として見れるようになっていた。

 このままずっと生えたままなのかな。
 今はアイドルだから恋愛どころか結婚も禁止だけれど、いつか卒業する時が来て、素敵な人と巡り会えたらいいねと土生ちゃんと話した記憶がある。
 男性器を隠しながら付き合っていたとして、いつかそんなすぐに分かる嘘なんてばれるに決まっている。もっといえば、このままの状態がずっと続くとは思えなかった。
 いつメンバーに、どのメンバーにばれてしまうのだろう。恐怖心がグルグルと頭の中で渦巻きながら床へつくことが多くなった。

 朝、起きがけと共に股間の膨らみも見慣れた光景だ。心配からか、深く寝つけていないようで身体は重たいのに、どうしてここだけは無駄に元気なのだろう。
 トイレで用を足すと、ある程度は鎮まるというのに、時間が経つとまた再び勃起を始める。時間がある時には「ペーチャンネル」を見て慰めるのだけど、問題なのが時間がない時だ。メイクやら着替えをしていると家を出なければならない時間になると、私は舌打ちをしてしまう。

 トイレで処理をしていた際にイカ臭いと言われてしまってから、私は外出中に自慰をすることが出来なくなっていた。
 しかし朝に処理をしておかなければ、ふいに勃起してしまうのだ。アイドルグループなだけあって、メンバーは当然女。これまで同性だったはずなのに、半同性みたいなものに変わってしまったから、勃起する要素が多いのだ。

 着替えでもそう、トイレもそう、たまにセクハラまがいのこともある。これまでなら身体に触られても平気だったのに、男性器が生えてからというもの、拒絶をしてしまうようになっていた。
 あちこち触られ、勃起してしまったら。更にそこからもし股間に触れてしまったら……。

「あれ? なんか股の所膨らんでない?」

 あなたに触られて勃起してしまったんです。
 なんて口が裂けても言えるはずがない。隠さなくては。とことん。どこまでも。墓場までといいたいところだけど、あまりにも長すぎて悲しくなる。何が悲しくて死ぬまで男性器を生やしたままにしなくてはならないのか。

「とにかく隠し切るしかないのよ、友香」

 自分に言い聞かせながら、「ペーチャンネル」で勃起した男性器を鎮めた私は、時計を見て悲鳴を上げた。このままでは遅刻をしてしまう。
 私は急いで後始末を終えると、風のように部屋を飛び出した。

( 2018/04/25(水) 18:43 )