第1章「ペーチャンネル」
02
 男性の生理現象であるいわゆる「朝勃ち」の存在を知ったのは、男性器が突如生えた日のことだ。あの日、私はこれがまだ夢を見ているのだろうと思い、もう一度眠ることにした。
 目が覚めたら元の身体に戻っていることだろう。笑い話で済めばいいと思いながら、私は眠りへついた。

 仕事で疲れていたのだろう。私の眠りは深かった。今度は変な夢を見ることもなく目が覚めた。
 けれども、男性器はそのままだった。眠る前同様に、ズボンを盛り上げて存在を誇示しているのを見た私は、突然襲ってきた頭痛も相まって文字通り頭を抱えた。

 こんなに大きくては仕事はおろか、外へも出れないじゃないか。閉め切ったカーテンから日の光が漏れている。せっかくの休日だから、趣味である乗馬でもしようかなと思いつつ、昨夜は床へ入ったというのに。
 痛む頭を両手で抱えながら、私は途方に暮れた。自分の力ではどうしようもないことが起きている。誰を頼ればいい?

 様々なものが去来する。両親の顔、祖父母の顔、友人の顔、そして欅坂のメンバーの顔……私はもう彼らに二度と会うことが出来ないのか。
 そう考えると涙が出てきた。一度目から溢れた涙は堰を切ったように溢れ出して、頬を伝って布団へとポタポタ落ちた。

 するとどうだろう。あれだけ己の存在を誇示するかのようにそびえ立っていた男性器がみるみるうちに小さくなったではないか。
 私は滲んだ視界でそれを確認すると、慌ててズボンとショーツを一気に脱いだ。もしかしたら男性器が消えたのかもしれない。

 けれどもそれは甘い幻想に終わった。私の股間には漫画であるような「おちんちん」が付いていた。
 そう。男性器は大きくなると“生えている”ように見えるのに、小さいまま――いわゆる“おちんちん”だと“付いている”ように見えるのだ。

 恐る恐る触れてみると、プニプニと柔らかくて、芋虫みたいだ。グロテスクなものを想像したけれど、漫画であるような形に私は少しホッとした。
 敵の正体を知った方が何かと都合がいいだろう。私は覚悟を決めた。何とか自力で解決してみせる。芋虫みたいな“おちんちん”に恐怖心は薄れた私は、まずは触診してみることにした。

 全体的に皮に包まれていて、先端はシワシワでおちょぼ口みたいだ。そこから下にはプニプニとした皮の下に何かが通っている。もしかしてこれが尿道なのか。
 男性はここから尿を排出させているのだから、きっとこれは尿道なのだろう。だとするとあまり触らない方がよさそうだ。

 芋虫みたいな部分の下には巾着袋みたいだった。袋の中にビー玉みたいなのが二つ入っている。これはなんだったか。
 私は保健の授業を思い出そうとした時だ。“おちんちん”がムズムズとし始めたのは。

( 2018/04/25(水) 18:40 )