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「また来てね。待ってるから」
互いに裸のままベッドで横たわっていると、瑞希は濡れた目をしていた。別れを惜しんでいるカップルのようだった。僕の胸がギュッと締め付けられた。
「うん。また来るよ」
「本当? 絶対だよ」
瑞希が小指を差し出してくる。意図に気付いた僕は、小指を差し出すと指同士が絡み合った。
赤い糸は見えなかった。けれども、見えない糸で繋がっている。
当時の僕はそう思っていた。僕と瑞希は見えない糸で繋がっていると本気で信じていた。あの出会いは運命だったのだ。
友梨奈がひときわ大きな声を上げた瞬間、女性器が
痙攣を起こしたようにビクビクと震えた。指だけでなく、手全体が水浸しになる。
「こんなに汚して。悪い子だ」
「ああ……ごめんなさい。ご主人様ぁ」
「舐めて綺麗にしなさい」
濡れた手を口元まで持っていってやると、友梨奈はペロペロと舐め始めた。猫が水を飲むように舌を出し入れして自分で出した液体を舐め取っていく。
「もういいぞ。いい子だ」
頭を撫でてやると、口角が上るのが分かった。友梨奈は猫というよりも犬みたいだ。飼い主の命令を忠実に守る犬。
そう考えると、当時の僕も犬だったのかもしれない。瑞希という飼い主に心を許した愚かな犬――。
あれだけ待ち焦がれた童貞卒業を果たしたというのに、僕の気持ちは晴れることはなかった。曇り空のようにスッキリとしない気持ちが僕を支配している。
本当にこれでよかったのだろうか。鈴木に唆された気がしてならなかった。奴は店の回し者かと疑いすら湧いてきた。
しかしそれも数日間だけのことだった。瑞希との初体験から数日が経つ頃には、僕の中でムラムラとする気持ちが日に日に強くなっていた。
自慰をしても満足感がなかった。女性器の味を覚えてしまったペニスが物足りなさを訴えるのだ。
夢の中で瑞希と再びセックスをする夢を見た。アダルトビデオの男優さながらに滑らかな腰使いで瑞希を責める。彼女は嬌声を上げて官能的な表情を見せている。
目を覚ますと、下着が濡れていた。夢精をするなんて久しぶりのことだった。
瑞希に逢いたい――日に日に強まるその気持ちを抑えることなんて出来なくなっていた。僕の足は自然と瑞希がいる店へと向かっていた。
あの日と同じように階段を下り、赤い絨毯を進む。無愛想な男に瑞希はいるかと訊くと、「指名ですね」と言って奥へと消えた。
男の代わりに奥から出てきたのは瑞希だった。こういう職業だから、きっと僕のことなんて覚えていないだろうと思っていたのに、僕を見つけた瞬間「キー君。来てくれたんだ!」と喜んだ。
「覚えてくれていたの?」
「当たり前じゃん。さ、早く部屋に行こう」
あの日と同じように腕を組んでくる瑞希からは、やっぱりいい匂いがした。僕はちょっとだけ組んだ腕に力を入れて、瑞希を引っ張って歩を進めた。