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鈴木は僕と同じく友人が少なかった。にもかかわらず、大学内の情報に詳しかった。僕が密かに思いを寄せた女性のこともよく知っていた。
「ああ、あの子か。可愛らしい顔立ちをしているな。俺は苦手なタイプだけど」
ハキハキとした彼女と鈴木では確かに陰と陽で対極的だった。
「あの子、同じサークルの奴と付き合っているよ」
情報量に乏しい僕でもそれは薄々分かっていた。あんな可愛らしい子が彼氏なんていないはずがなかった。
「ただ、別の大学にも彼氏がいるらしい。ま、それが本命らしいが」
僕は言葉を失った。彼女が二股をしている? 鈴木の言葉が信じられなかった。
「嘘だと思うのならそう思ってくれて結構。女なんて見た目に騙されちゃいけないっていうお手本のような女だがな」
鈴木から聞いたのは、彼女は高校時代から彼氏をコロコロと変え、援助交際までしていたという。女子高生というブランドがなくなると、髪色を変えて一変、清楚なイメージに変えたというが、援助交際は未だに続いているという。
マネージャーをしているとのことで、お目当ての男を見つけると肉体関係を持っていることは有名で、影ではあのサークルは「穴サークル」と呼ばれているらしかった。
全てが信じられなかった。寓話のようにしか思えなかったけれど、ある日僕は見つけてしまった。彼女がスーツを着た男と腕を組んで歩いているところを。
どう見ても親子にしか見えない年齢差だった。いわゆる援助交際か。僕は鈴木の話が本当かどうか確かめるべく、二人の後を尾行した。
二人がどこまで行くのか分からなかった。何時間尾行すればいいのか見当もつかなかった。けれど、運がいいのか悪いのか、僕の尾行はものの数分で終わった。
建物の中へと入っていく二人を見つめて、僕は何度見たか分からないほど見た看板をもう一度見つめた。
そこには何度見ても変わらず、ホテルの名前があった。
大学生活を送る中で、彼女の情報は情報源に疎い僕でも耳にするようになっていた。夏休み前にサークル内で付き合っていた男と別れ、別のサークルの男と付き合ったこと。けれど、それもひと夏の恋といわんばかりに夏休みが明ける前に別れたこと。
彼氏と行った海にもかかわらず、彼の目を盗んでナンパしてきた男たちと肉体関係を持ったこと。日焼けをした身体は、もはや僕の目には汚いものを見るものに変わっていた。
「ちょっと待ってなさい」
僕は一旦ベッドから降りると、クローゼットを開けた。確か旅行カバンの中に入れっぱなしのはずだ。
ガサガサとバッグを漁ると、目的の物を見つけ、ベッドへと戻った。ベッドにちょこんと座る友梨奈は借りてきた猫のようだ。