本編
14
 サークルも入部した。運動部の方がいいのだろうけど、昔から運動なんてしてこなかった僕には、体育会系の独特の雰囲気を受け入れられるはずもなく、文化系サークルに入るしかなかった。
 ただ、勧誘のチラシを持っていた子にはときめきを覚えた。あの大学には珍しい黒髪ショートの子。爽やかないでたちで、運動部だけあって声がハキハキとしていたのが更に好印象だった。

 あの子は誰だろう? 運動部に入るつもりなんてなかったけれど、あの子のことが気になって仕方がなかった。
 校内ですれ違う。それだけで胸がドクンと跳ねた。お互いの名前すら知らない。けれども、ちょっとしたきっかけ――例えば彼女が落としたチラシを拾ってあげたら、拾おうとしていた彼女の手に触れた。お互いハッとしながらも、そこから恋は進展していく。

 妄想だけが絶え間なく広がり、僕は結局行動に移せないまま文化系のサークルに入部した。理由なんて簡単だった。文化系ならば大人しい女の子が多いだろうし、なんといっても煩わしい集まりが少ないからだ。
 勧誘のチラシには集まりたい時に集まるのがスタイルだと書かれていた。僕は気になるあの子よりも、そちらを優先したのだ。

 けれどそれが間違いだと今になって痛感する。サークルは確かに集まりは少なかった。その代わり、サークル内での人間関係が希薄だった。
 あなたは誰ですか? そんな人ばかりで、僕が声なんてかけられるはずもなかった。就職活動に少しでも有利になればと、形上入部をしている人が多いのだと知ったのは、入部してからしばらく経ってからだ。

 恋人どころか、女友達すら出来ない。僕の中で焦りは次第に大きくなっていく。憧れのキャンパスライフは、結局憧れのままで終わってしまうのだろうか。
 そんなことを思っていた時だ。僕に話しかけてくる男がいた。病気ではないかと思うほどに痩せていて、顔色の悪い男だった。いうなれば、ガイコツか死神のようだ。
 僕が言うのもなんだけど、薄気味悪い、いかにも男子からも女子からも好意を抱かれない見た目だった。

 けど、当時の僕は友人に飢えていた。高校の同級生は別々の大学で、更には学年も上になってしまっていた。就職活動だと騒ぐ彼らとは、距離がみるみる離れていった。
 友人の協力なしでは、憧れのキャンパスライフを成就することは難しい。そう痛感した僕は、彼を受け入れることにした。

 男は鈴木といった。ありふれた苗字で、僕の苗字が羨ましいと嘆いていた。
 鈴木は僕と似たような境遇の持ち主だった。類は友を呼ぶのだろう。校内で死神みたいな鈴木と一緒に歩くのは恥ずかしかったけれど、大学で初めて出来た友人だからと僕は我慢した。

■筆者メッセージ
SKEの大矢が卒業するそうな。
プロ野球のベテランが引退するみたいな気分ですね。
( 2017/06/26(月) 22:23 )