03
中間テストの一週間前には部活がなくなっていた。部活動のない放課後は、テストの話題で持ちきりだった。圭介は雑音を耳に、廊下へ出ると真っ直ぐに下駄箱へ向かった。
今更になって緊張感が圭介を包んでいた。そう。生田絵梨花とのテスト勉強をする日が今日だった。朝はようやくこの日が来たかと、待ちわびていた日を歓迎したが、いざ放課後を迎えると不安にも似た気持ちに苛まれた。
校門で彼女を待つ。一つ年上の彼女を待っていると、本当に彼氏彼女の関係になったかのような錯覚を覚えた。女生徒たちが集団となって下駄箱から出てくる。さながら魚の群れのようだ。そんな群衆の中で一人の女生徒を探す。
と、彼女を見つけた。彼女はまだ圭介の存在に気がついていないようだ。友人と思しき女生徒と話しながらこちらへ向かってくる。
「生田さん」
群衆の中に声をかけると、パッと彼女と目が合った。
「待った?」
圭介に向かって進路を変える彼女に、友人と思しき女生徒が首を傾げながら着いてきた。
「ごめんね。この子とこれから予定があるから」
手を合わせる絵梨花に、女生徒は意味深にフンフンと頷いた。
「言っておくけど、彼氏じゃないからね。新聞部の子で、その手伝いだから」
「え? そうなの? てっきり彼氏が出来たのかと思っちゃった。なんだ」
新聞部の手伝い――言い訳としては上手いことを思いついたものだと圭介は感心した。と、同時にやはり彼氏として見られていないのかとも、胸にチクリと棘が刺さったような痛みも感じた。
「じゃあね」
「うん。ごめんね」
女生徒が再び群衆の中に紛れ込むと、絵梨花は「ふう」と息をついた。
「じゃあ、行きましょうか」
絵梨花と横に並ぶと、そのまま校門から出た。
「さっきの方はクラスメイトの方ですか?」
「うん。さっさと帰ろうとしたら捕まっちゃって。あの子ともテスト勉強をしようって誘われているの」
隣に並んで歩く。圭介はチラリと周囲を覗うが、誰も自分たちを気にしている様子はなかった。
「ふうん。モテるんですね」
「そういうわけじゃないって。しかも相手は女の子だよ。変なこと言わないの」
徐々に前を歩く生徒たちがばらけていく。視界が広がるにつれ、幸福感がじわりと広がるのを感じた。
「いやあ、生田さんならモテますよ。ええ。絶対に」
「そんなことはないって。北野君だって、人気があるよ」
「本当ですか?」
自分に人気があるなんて初耳だった。圭介は思わず横を向くと、絵梨花ははにかんで見せた。
「嘘。他の部じゃわからないけど、吹奏楽部では北野君のきの字も出ないかな」
絵梨花の言葉に、圭介はやっぱりなと思う反面、ガッカリした。やはり自分は影が薄いのだと改めて言われたようだ。