01
首尾よく生田絵梨花の連絡先を交換でき、圭介は上機嫌のまま教室へと戻った。
ポケットの中に感じる幸せ。まだ連絡先を交換しただけなのに、圭介の心は満たされていた。その歓喜で授業どころではなかった。
「はーん。生田嬢と連絡先を交換した、ねえ」
昼食の時間になり、和也といつもの場所に来た。和也は意外そうでも、興味がありそうでもない様子だった。
「これで一歩また近付けたよ」
確実に彼女との距離が縮まっている。圭介の確信は自信へと繋がっていた。
「水を差すようだけどさ、まだ連絡先を交換しただけだろ? 気が早いんじゃないのか」
和也の言葉に圭介はムッとした表情を見せた。
「何だよ。いいじゃないか。俺はお前みたいに器用じゃない。連絡先を交換するのにも一苦労なんだぞ。わかってくれよ」
「わかっているけどさ。あくまで気を抜くなよっていう意味として受け取っておいてくれよな」
紙パックのコーヒー牛乳をストローで差すと、和也はチューっと中身を吸った。
「別に気なんて抜いてねえよ。むしろこれからだ、これから。試合は始まったばかりなんだよ」
「試合が始まったというよりも、ようやく土俵に立てたっていう方だろ」
ゲラゲラと品のない笑い声を上げる和也を一瞥すると、圭介は黙ってパンの袋を開けた。
「ところで、和也こそテストは大丈夫なのか。お前が真面目に勉強をしている風には見えないけど」
「何だ。俺のことまで心配してくれるのか。優しいねえ」
腕を回してきそうになる和也を圭介は手で振り切った。
「止めろよ。男同士で気持ち悪い。別に心配なんてしてねえから」
「冷たい奴。ま、お前の言う通り勉強なんて真面目にしてねえけどな。どうせ一年の中間テストなんてそいつの現状を見るだけのテストだろ? 今ここで全教科を仮に百点満点を取ったとしても、必ずしも大学受験が成功するとは限らないのだよ」
「それはそうだけど」
「大事なのは志望校に合格することと、進学が出来ること。この二つを外さなければ俺はいいと思ってる。むしろ俺はそれ以外を大切にしたいんだ」
いつになく真面目に語る和也に、圭介は聞き入っている。
「それ以外って?」
「女の子のことだよ。鈍いなあ」
せっかく人が傾聴しているというのに。圭介は大きく溜め息をついた。
「何だよ。人が真面目に聞いてやれば」
「俺は大真面目だって。お前だって“それ”を求めてこの学園に入ったんだろ? わざわざ苦労して入学したんだ。恩恵は受けれるだけ受けないと」
「それはそうだけどさ」
バカにしていたが、和也の言っていることはもっともなような気がしてきた。