08
圭介は自然な動作でベッドの脇に腰掛けた。この学園に入って、少しは女性との距離の詰め方に態勢がついたように思う。
「でも、もう具合の方はいいんですか?」
「うん。ちょっと朝から具合が悪かったけど、今は平気。でも授業中に戻るのはなんとなく気恥ずかしくて、終わったら戻ろうと思っていたところ」
そうだったのか。自習にならなければ、トイレに行かなければ、麻衣と会わなければ、彼女とこうして二人きりで話すことなんてできなかった。圭介はもはや運命だとしか思えなかった。
自分と彼女は赤い糸で繋がっている。二人きりというシチュエーションに加え、絵梨花が自分のことを嫌っていないと判断すると、圭介は強気だった。
「わかります。授業中に戻るって、なんか嫌ですもんね」
「北野君は本当に大丈夫なの? そろそろテストが近いんじゃないかしら」
新入生として、初めてテストを受ける期間が近付いていた。クラスでも、たびたびその話題は挙がっていた。
「大丈夫です。日頃から授業は真面目に受けていますから。まあいざとなったら、生田さんに教えてもらいますから」
数少ない男子生徒である。自惚れではなく、女生徒たちも男子生徒のことは気にしているはずだ。運動部ではない圭介は、運動には自信がなかったが、勉強だけはそこそこ自信があった。むしろ、運動が出来ない分、勉学でカバーしようと思っている。
将来のためというよりは、目先の女生徒たちへのアピールのためだ。ただでさえルックスに自信があるわけでもないのに運動も出来ない、勉強も出来ないでは話にならない。
あわよくば――勉強の出来ない女生徒に頼まれ、放課後の図書室で勉強を教える。静かな場所で二人きり。夕日が二人を包み込む。
―-ここはね、こうすればいいんだよ。優しく教えているうちに二人の距離は縮まり、交際に発展するのではないだろうか。そんな妄想をすることがある。
「もう。ちゃっかりしてるわね」
まさか圭介がそんな妄想をしているとは知らない絵梨花は、圭介の肩を小突いた。
「まあまあ。いいじゃないですか。減るものじゃないし。今度一緒に勉強をしましょうよ。ね、生田さんもテストがあるでしょ」
「そうだけど。うーん」
渋る絵梨花を見ながら、圭介は“いける”と思った。あえて渋っているのは、簡単な女じゃないと思わせたいためだろう。
「いいじゃないですか。ね、一緒にしましょうよ。人と一緒に勉強する方が一人のときより集中できる場合もありますし」
真面目な彼女のことだ。下手に遊びに誘うより、勉強の方が乗ってきてくれるはずだ。
「まあ、そう、ねえ。わかったわ。今度一緒に勉強しましょうか」
圭介の予想はズバリ的中した。心の中でガッツポーズを作った。