第七章「買い物」
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 翌日、午前の一コマ目の授業は自習となった。担当教諭に不幸があったとのことで、自習となった教室は騒がしかった。圭介はトイレに行こうと、廊下に出た。
 圭介たちのクラスを過ぎてしまえば、授業中の廊下は静かだった。ふと何気なしに窓越しから外を見ると、伊織が見えた。どうやら体育の授業のようだ。膝を抱え込むようにして座っている彼女はつまらなそうに見えた。

 もしかして、あのサイトのことを考えているのだろうか。
 生田絵梨花とはまた違う、凛とした――玲瓏さの中にどこか温かみを感じる絵梨花に対し、伊織は少し冷たい印象を受ける。それも人見知りが原因だろうが、冷めた雰囲気の彼女がまさかあんな低俗なサイトにのめり込んでしまうとは考えにくかった。

 何かの間違いだ。圭介は窓から視線を外すと、肩に何かが触れた。

「ぶすっ」

 頬に刺さる指。見れば、悪戯っ子な笑みを浮かべた深川麻衣がいた。

「何ですか」

「ブー。冷たいなあ。騙されたから怒っているのかしら」

「いや、そういうわけじゃないですけど」

 視線を下げると、圭介の目に麻衣の胸が見えた。そういえば、この豊満な胸を触らしてもらっただけでなく、ペニスを挟んでもらったのだ。思い出すと、頬がカーッと熱くなった。

「北野君こそどうしたのよ。もしかして、サボり? ダメよ。ちゃんと授業を受けなきゃ。留年しちゃうぞ」

「違いますよ。自習になって、トイレに行くつもりだったんです」

「ははーん。それで相楽さんのことを熱心に見ていたわけだ」

 麻衣はそこから見ていたか。目ざとい麻衣に圭介は頭を掻いた。

「違いますって。いや、見ていましたけど、別に変な目でなんか見ていません」

「別に私は変な目とも言ってないわよ。そ・れ・と・も、いつも相手からそう思われる目つきをしているのかしらねえ、君は」

 グルグルと圭介の目の前で指を回す麻衣は、そのまま指先を下へ下げ、股間の辺りを指差した。

「クンクン。童貞のにおいがするゾ。エッチなにおいだ」

 裏声を出す麻衣に、不覚にもペニスは反応を見せ始めた。ゆっくりと制服の下から膨張を始める。

「なーんちゃって。今ちょっと忙しいから、先生君を相手にしていられないの。ごめんねえ」

「どこが忙しいんですか。全く。生徒をからかうのも大概にしてくださいよ」

 もう童貞ではなかったが、まだ初心者もいいところだった。麻衣に手ほどきをしてもらいたいという淡い期待も膨らんでいたが、すぐに萎んでしまった。

「こう見えて忙しいのよ。今日も貧血で倒れちゃった子がいてね」

「へえ。こんな朝から倒れる人もいるんですね」

 貧血などなったことがない圭介にはわからないことだった。

「関係ないわよ。特に女の子だし。いつも真面目に授業を受けている子だから、そばにいてあげないと」

「今も寝ているんですか?」

「そうよ。生田さんっていう、二年生の子ね」

( 2017/06/18(日) 17:53 )