02
商店街の中を練り歩きながら圭介たちは買い物を済ませていく。といっても、商品を選んで購入しているのは日奈子で、圭介は荷物を持っているだけだった。
「じゃあ、次のお店は」
「おいまだ行くのか。こんなのスーパーに行けば全部買えるだろ」
両手に下げた袋が重たくなり始めていた。
「わかってないなあ。安いところを回ってるんじゃない。あとは、行きつけのところだからおまけをしてもらってるし」
日奈子の言うように、昔から行きつけの店があって、大抵の店ではサービスをしてくれている。小さい頃は母親に連れられてよく行っていたが、小学生の高学年になるとほとんど行かなくなっていた。だから、店先では口々に懐かしいと言われていた。
圭介は意識していなかったが、日奈子は今も母親と一緒に買い物へ行っているようだ。店の人間とのやり取りを聞いていると、そこら辺の主婦と変わらない。
「お得意様をルート営業しているってことか」
まだまだ買い物が続くのかとうんざりするが、しょうがないと自分に言い聞かせたときだ。買い物袋が大きく揺れた。
「あっ、ごめんなさい」
制服姿の女生徒が頭を下げてきた。
「あ……」
見覚えのある人だった。
夢の中にまで出てくるほど無性に会いたい人――。
「ああ、北野君か。買い物中?」
首を捻る女生徒。生田絵梨花だった。
「は、はい、そうです。あの、生田先輩はどうされたんですか」
想い人との突然の遭遇に圭介の心臓は猛烈な勢いで激しくなった。
「私は部活が終わって、ちょっと小腹が空いたからおやつを食べてたところ」
見れば彼女の手には袋に入ったコロッケが半分顔を覗かせていた。
「恥ずかしいね。なんだか食いしん坊みたいで」
絵梨花はそう言ってはにかんで見せた。
「そんなことはありませんよ。部活が終わったあとってお腹が空きますよね。うん。わかりますよ」
「知り合い?」
圭介たちが話していると、日奈子が近付いてきた。圭介は内心、あっちへ行ってろと思った。せっかくいい雰囲気になりそうだというのに。
「ああ、うん。まあ」
「妹さん?」
「ええ、まあ、はい。そう、ですね」
妹が見つかったことは、まるで自分の恥部を見られているかのようだ。まあ、母親じゃないだけましなのかもしれないが。
「へえ。北野君に妹さんがいたんだ。うん。なんだかお兄ちゃんぽいしね。初めまして。私、生田絵梨花。北野君の学校の先輩なんだ」
学校の先輩か。認知してもらえたことに、圭介は素直に感激した。
「あっ、北野日奈子です。お兄ちゃんがいつもお世話になっています」
「お兄ちゃんだって。可愛いなあ」
そう言って日奈子の頭を撫でる絵梨花。
圭介は日奈子に嫉妬した。
「二人でお買い物なんて仲がいいんだね」
「違いますよ。お兄ちゃんに頼んだのに、忘れてくれて。だから荷物持ちで連れて来たんです」
そのおかげでこうして生田絵梨花と会えたのだ。これは運命としか考えられなかった。
「そうだったんだ。妹思いの優しいお兄ちゃんでよかったね」
圭介の目を見つめたまま微笑む絵梨花に、圭介の心は鷲掴みにされた。
「えー。そんなことないですよ。さっきまでパンツ一枚だけで寝ていましたし」
「おい、日奈子。なんてことを言うんだ」
彼女の前ではだらしない男として見られたくなかった。上品な彼女だ。きっとだらしない男なんてのは、論外だろう。
圭介が日奈子と言い合いをしているのを、絵梨花は柔和な笑みを浮かべたまま見つめていた。