第七章「買い物」
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 商店街の中を練り歩きながら圭介たちは買い物を済ませていく。といっても、商品を選んで購入しているのは日奈子で、圭介は荷物を持っているだけだった。

「じゃあ、次のお店は」

「おいまだ行くのか。こんなのスーパーに行けば全部買えるだろ」

 両手に下げた袋が重たくなり始めていた。

「わかってないなあ。安いところを回ってるんじゃない。あとは、行きつけのところだからおまけをしてもらってるし」

 日奈子の言うように、昔から行きつけの店があって、大抵の店ではサービスをしてくれている。小さい頃は母親に連れられてよく行っていたが、小学生の高学年になるとほとんど行かなくなっていた。だから、店先では口々に懐かしいと言われていた。
 圭介は意識していなかったが、日奈子は今も母親と一緒に買い物へ行っているようだ。店の人間とのやり取りを聞いていると、そこら辺の主婦と変わらない。

「お得意様をルート営業しているってことか」

 まだまだ買い物が続くのかとうんざりするが、しょうがないと自分に言い聞かせたときだ。買い物袋が大きく揺れた。

「あっ、ごめんなさい」

 制服姿の女生徒が頭を下げてきた。

「あ……」

 見覚えのある人だった。
 夢の中にまで出てくるほど無性に会いたい人――。

「ああ、北野君か。買い物中?」

 首を捻る女生徒。生田絵梨花だった。

「は、はい、そうです。あの、生田先輩はどうされたんですか」

 想い人との突然の遭遇に圭介の心臓は猛烈な勢いで激しくなった。

「私は部活が終わって、ちょっと小腹が空いたからおやつを食べてたところ」

 見れば彼女の手には袋に入ったコロッケが半分顔を覗かせていた。

「恥ずかしいね。なんだか食いしん坊みたいで」

 絵梨花はそう言ってはにかんで見せた。

「そんなことはありませんよ。部活が終わったあとってお腹が空きますよね。うん。わかりますよ」

「知り合い?」

 圭介たちが話していると、日奈子が近付いてきた。圭介は内心、あっちへ行ってろと思った。せっかくいい雰囲気になりそうだというのに。

「ああ、うん。まあ」

「妹さん?」

「ええ、まあ、はい。そう、ですね」

 妹が見つかったことは、まるで自分の恥部を見られているかのようだ。まあ、母親じゃないだけましなのかもしれないが。

「へえ。北野君に妹さんがいたんだ。うん。なんだかお兄ちゃんぽいしね。初めまして。私、生田絵梨花。北野君の学校の先輩なんだ」

 学校の先輩か。認知してもらえたことに、圭介は素直に感激した。

「あっ、北野日奈子です。お兄ちゃんがいつもお世話になっています」

「お兄ちゃんだって。可愛いなあ」

 そう言って日奈子の頭を撫でる絵梨花。
 圭介は日奈子に嫉妬した。

「二人でお買い物なんて仲がいいんだね」

「違いますよ。お兄ちゃんに頼んだのに、忘れてくれて。だから荷物持ちで連れて来たんです」

 そのおかげでこうして生田絵梨花と会えたのだ。これは運命としか考えられなかった。

「そうだったんだ。妹思いの優しいお兄ちゃんでよかったね」

 圭介の目を見つめたまま微笑む絵梨花に、圭介の心は鷲掴みにされた。

「えー。そんなことないですよ。さっきまでパンツ一枚だけで寝ていましたし」

「おい、日奈子。なんてことを言うんだ」

 彼女の前ではだらしない男として見られたくなかった。上品な彼女だ。きっとだらしない男なんてのは、論外だろう。
 圭介が日奈子と言い合いをしているのを、絵梨花は柔和な笑みを浮かべたまま見つめていた。

( 2017/06/18(日) 17:51 )