02
教室で伊織と一緒に食べるのは、同級生の目があるからと、圭介はなるべく人の目が少ないところを探した。が、教室も外も却下しては、どこもないことに失望する。
一瞬、屋上ではどうだろうと閃いたが、あそこは鍵がかかっていたことを思い出した。そうなると、考えられる場所はただ一つだった――。
いつも記事を書いているこの場所で食事をするのは初めてだった。料理部からの差し入れはもらって、ここで食べたことはあるが、部活以外で部室にくることはなかった。
そう。頭を悩ませた圭介が選んだのは、新聞部の部室であった。ここなら誰の目も入らないだろう。
圭介の背後を三歩ほど離れて歩く伊織に、新聞部の部室で食べようと誘うと、彼女は一瞬意外な顔をしたが、すぐに表情を戻し、無言で頷いた。
昨日、七瀬の自慰を見た場所である。そこで食事を摂るのかと思い出したのは、部室の扉を前にしたときだった。
「相楽さんのそれは、自分で作ったの?」
だが、もう場所の変更はできなかった。感情を――昨日の出来事を綺麗さっぱりと忘れたフリをして、圭介は部室の中へと入った。
自分の席に腰掛けると、伊織もまた、自分の席へ着き、堤から弁当を取り出した。
「いえ、お母さん」
伊織は圭介のことを一瞥しながら短く答え、また弁当箱へ視線を戻した。
元から圭介だって口数の多い人間ではない。まして、相手はクラスも違う、一緒の部ではあるが幽霊部員の彼女である。会話の接点が少なくて、沈黙がやけに重たく感じてしまう。
「でも、お弁当を用意してくれるっていいね。うちは『もう高校生なんだから、自分で用意しなさい』って言われているんだ」
「へえ。そう」
何とか会話を広げようとするが、伊織はそんな圭介の気持ちを全く汲もうとしてくれる様子は皆無だった。
――参ったな。
これでは、一人で食べた方がよっぽど気が楽である。無言で食べ進める伊織を横目に、圭介が小さく溜め息をつくと、ふいに彼女が隣を見た。
「卵焼き、いる? 私が作ったやつだけど」
ふいに声をかけられ、圭介は一瞬、それが誰に対して言われたのかわからなかった。
すぐに自分に言われたのだと気付くと、伊織のことを驚いた目で見た。
「いらないなら食べちゃうけど」
箸の先には、表面が茶色がかった卵焼きがあった。
「いいの?」
伊織の目と卵焼きを往復させながら、圭介は訊いた。
伊織は、そんな視線から逃げるように、下を俯かせると、頷いた。
「じゃ、じゃあ、いただきます」
しかし、言ってみたはいいが、圭介は箸を持っていなかった。手づかみでいいかと思うと、目の前に卵焼きがふわりと宙を舞うようにして現れた。
見れば、卵焼きの背後には恥ずかしそうに顔を伏せる伊織の姿があった。どうやら食べさせてくれるようだ。
まさか女の子から、食べさせてくれるなんて。
しかも相手は、人懐こい真夏ではなく、人見知りの激しい伊織である。圭介は感動に打ち震えながら、口を開けた。