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男性器のことは以前より気になっていた。幼い頃に見たのは父親のだけで、それ以外を見たことがない。美術部に入れば、男の裸体をいつか描く日が来るだろう。そう思っていたが、まるでそんな気配なんてなかった。
かといって、他に頼める男なんていなかったし、どちらかといえばほとんど接したことのない男という生き物が苦手というか、どう接していいのかわからなかった。
しどろもどろになりながら説明する七瀬に、圭介はもう一度絵を見てみる。
真っ白なキャンパスに描かれたペニス。ダランと勃起していないペニスがただ描かれているだけだった。
「で、僕にモデルを頼んだ、と。まあ、言いたいことはわかりましたけど」
さすがに苦笑するしかなかった。うら若き乙女がペニスだけを描いているなんて。
「でも、部長だったらすぐに彼氏なんてできるでしょう」
「これまで女子高やったんやで。出会いがないって」
「ナンパとかあるじゃないですか」
可愛らしい七瀬のことだ。彼女から誘われて断る人間は少ないだろう。
「そんな、なながナンパなんてできると思って?」
ただでさえ、人見知りに加え、男性恐怖症の気さえ見せる彼女には確かに酷な話だろう。圭介だってそう言われてしまえば、七瀬と同じことを言っただろう。
「ですよねえ」
「でも、北野君の、最初の頃と大きさがちゃうね」
鉛筆を指しながら七瀬は指摘した。
「いや、まあ、そうですね」
「なんでなん?」
何でと言われ、圭介はたじろいだ。まさか七瀬の下着を見て興奮したと正直に言えばいいのだろうか。
「それは、その……」
「知ってるで。男の人って勃起するやんな。で、今は通常状態ってことやろ」
七瀬はそのまま鉛筆でペニスを持ち上げた。
「ちょっと」
「描いてて思ったけど、なんか芋虫みたいやな」
頭に毛を生やした芋虫を面白そうに鉛筆でペシペシ叩くと、ペニスが反応を見せ始めた。
「わっ。なんか大きくなってきた。勃起してるん?」
顔をグッと近づける七瀬の吐息がペニスに当たった。
「まだ完全じゃありませんよ」
「どうすれば完全体になるん?」
子供のように無邪気な質問をぶつけているが、七瀬の瞳孔が開いているのが圭介にはわかった。
「部長の裸を見れば」
「……しゃあないなあ」
見つめあったまま、数秒間。やがて七瀬は諦めたように笑って見せた。
ブラジャーのホックを外す。小ぶりな胸を腕で隠したまま、圭介のことを伺い見た。
「小さくても文句は受けつけないで」
「文句なんて言いませんって。可愛い胸をしていますよ」
「変態」
片手で胸を隠しながら、七瀬は器用に下着を脱いでいく。座ったまま、軽く腰を浮かすと、わずかに黒い部分が見えた。